あなたの知らない!?「練り製品 」の世界 ~潜入!都産技研~
都産技研ではどんな人がどんな研究をしているのか、実際に広報担当が潜入して確かめる「潜入!都産技研」。今回のテーマは「練り製品」です。
かまぼこ、ちくわ、はんぺん、揚げかまぼこなど……スーパーには、さまざまな練り製品が並んでいます。でもそういえば、かまぼこはどんな魚からつくられるんでしょう。かまぼこになりやすい魚と、なりにくい魚には、どんな違いが……?
そこで、都産技研で食品分野を扱う食品技術センターに潜入。意外と知らない「練り製品の世界」について聞いてきました。
マグロやカツオでかまぼこがつくりにくい理由とは?
訪れたのは秋葉原にある食品技術センター。練り製品の研究を続けて20年にもなるスペシャリスト、主任研究員の野田誠司さんに話をうかがいました。
今日はよろしくお願いします。いろいろと見慣れぬ機械が並んでいますが、ここは何をする部屋なのでしょうか?
野田「ここは『低温加工実験室』といいまして、肉や魚などを温めずに加工するための部屋になります。天井に大きなクーラーが2台もあるでしょう?普段は10℃ぐらいまで下げるので、真夏でも真冬の格好で加工しているんですよ(笑)」
1分間に3000回転のスピードでグルグル混ぜていきます……
ところで、私たちが普段食べているかまぼこは、どんな魚からできているんですか?
野田「スーパーで売られているかまぼこは、主にスケソウダラという白身の魚を原料にしていることが多いですね。でも日本では昔から、その地域で獲れた魚を使って練り製品をつくっていたんですよ」
確かに、仙台の「笹かまぼこ」や鹿児島の「さつま揚げ」など、地域の特産品になっている練り製品は多いですよね。
野田「町おこしのために地魚で練り製品をつくろう、という地域も増えてきました。ただ、魚の性質にもいろいろあるので、どんな練り製品がつくれるのかは調べてみないとわかりません。そこで、私たち食品技術センターで試験を請け負ったり、研究をしたりしているんです」
なるほど。ということは、「練り製品になりやすい魚」というのがある……?
野田「スケソウダラはすごく弾力が出る魚なので、かまぼこの原料として全国に普及しました。反対に、脂の多い魚は弾力が出ないので、カツオやマグロはかまぼこになりにくいですね」
魚の性質だけでなく、加工の仕方でも弾力の有無は決まるそう。しかし、あまり弾力に頼るとゴムを噛んでいるみたいになってしまうので、しなやかさや味も重要なのだとか。
野田「実は、練り製品は1種類の魚でつくられているわけではありません。弾力を担当する魚や、味付けを担当する魚など、複数の魚をミックスしてつくるものなんですよ。季節によって獲れる魚は異なるので、そこをどう調整するかが職人さんの腕の見せどころになります」
練り製品の中で、ロックバンドみたいに担当が分かれているとは……!
ちなみに野田さんによれば、「東日本は弾力を、西日本は味を重視する傾向がある」そう。その地域で獲れる魚から「ベストな練り製品」を追求した結果、全国各地でさまざまな種類の練り製品がつくられるようになったんですね。
ヤマメのかまぼこ「やまぼこ」の恐るべきポテンシャル
そんな野田さんの研究成果のひとつが、ヤマメの揚げかまぼこ「やまぼこ」です。2021年、奥多摩さかな養殖センターとの共同研究により、産卵後のヤマメを活用した商品として誕生しました。
ヤマメといえば、渓流を泳ぐ淡水魚。しかし野田さん曰く「普通、川の魚は練り製品にしないんです」とのこと。それはどうして……?
野田「練り製品を商品として流通させるには、かなりの量の魚が必要なんです。海の魚に比べて、川の魚は獲れる量が少ないので、これまで練り製品にされてこなかったんですね」
ではなぜ、今回はヤマメを練り製品にできたのか。それは「養殖」と密接な関係がありました。
野田「奥多摩さかな養殖センターではヤマメを養殖しているのですが、ヤマメは産卵後にすべての個体が死んでしまいます 。その量は毎年約2.5トンにものぼり、処分費用や手間などが課題になっていたんです」
SDGsの観点からもなんとかしたい、とのことで始まった、ヤマメのかまぼこの開発。しかし川の魚を練り製品にした前例がありません。そもそも、練り製品になるのでしょうか……?
野田さんが調査を始めてみると……。
野田「いろいろ試験をしてみたところ、蒸してよし、焼いてよし、揚げてよし、とスケソウダラにも劣らない、強い弾力を持つことがわかりました。これは練り製品にするべきだと思いましたね。しなやかさも出るよう調整を加えながら、揚げかまぼこにしていきました」
さらにヤマメには単体で淡泊な味わいがあり、味担当の魚を混ぜる必要がないく、すり身に塩を入れても長期間の保存が効くといった特長も判明。あまりのポテンシャルの高さに、野田さんも「まさかここまでとは」と驚いたそう。
こうして完成したヤマメの揚げかまぼこ「やまぼこ」は、2023年4月に奥多摩で一般発売が開始されました。味が淡泊で他の料理にもよく合うことから、すり身の販路も広まっています。
野田「実は、本当の意味でこの“ヤマメプロジェクト”は終わっていないんです。商品にできるのは、ヤマメの身だけ。今後は骨やヒレの有効活用にも取り組んでいくつもりです」
かまぼこ工場で働いたり、船で漁に出たことも……!?
野田さんが練り製品の研究を始めてから約20年。この20年で、練り製品を取り巻く状況はどのように変わったのでしょうか。
野田「20年前は、東京にもかまぼこ屋さんがたくさんありました。味はもちろん美味しいのですが、スーパーのかまぼこに価格競争で負けてしまって、だいぶ減ってしまいましたね」
えっ。ちょっと待ってください。野田さん、かまぼこ工場で働いていたんですか!?
野田「もともと私の専門は工業化学で、食品については素人だったんです。でも、食品技術センターに新たに水産加工食品の部門をつくるタイミングで、私が担当することになりまして。本当にゼロから分析手法などを学ぶことになり、その一環として『現場を見ないとダメだ』と……」
そんなわけで、築地にあった老舗かまぼこ店で1ヵ月間、朝7時から夕方5時までみっちり働くことになったそう。さらに「船で漁に出たこともある」といいます。そこまで!?
野田「式根島に加工機械を見に行ったとき、話の流れで漁船に乗せてもらうことになったんですよ。タカベという高級魚を獲る漁だったんですが、私を漁師の後継ぎだと勘違いして厳しく指導されました。 刺し網漁といって魚を追い込む漁なので船の揺れが激しくて……もう生きて帰るのに必死でしたね」
周りの方々の協力も得ながら、ゼロからのたたき上げで練り製品の研究成果を挙げてきた野田さん。最後に、研究のやりがいについて聞きました。
野田「島で特産品をつくるお手伝いをしたり、奥多摩でヤマメの揚げかまぼこにチャレンジをしたり、練り製品に関わることで世界が広がりました。自分が研究したものが商品化されて、いろんな方に食べていただけることが、やっぱり一番嬉しいですね」
食品技術センターをもっと知りたい方へ
今回取材しました食品技術センターは秋葉原にあり、都内食品産業の振興および都民の食の安全と食生活の充実を図ることを目的に、1990年、「東京都立食品技術センター」として設置されました。
2021年4月には食品業界を取り巻く社会情勢の変化に対応するため、都産技研と組織統合をしました。食品産業における技術的課題の解決や東京の地域資源を活用した食品開発などを積極的に行っております。
また、2022年4月からは「フードテックによる製品開発支援事業」を開始しました。「フードテックによる製品開発支援事業」では、
・ 代替肉の創出・普及支援
・ 介護食品、即席食品の高品質化支援
・ 機能性食品のエビデンス取得支援
・ 輸入小麦代替による食品の開発支援
につながる研究開発を進めています。
食品技術センターでは、食品の原材料や加工食品、食品加工資材等に関する各種支援業務(技術相談、依頼試験、機器利用、技術セミナー・講習会、オーダーメード型技術支援)を行っております。ぜひお気軽にお問い合わせください!