見出し画像

家庭用コンセントの出力5,000倍以上!?「高電圧実験」の世界~潜入!都産技研~

こんにちは、都産技研の広報担当です。

都産技研ではどんな人がどんな研究をしているのか、実際に広報担当が潜入して確かめる「潜入!都産技研」。今回は高電圧実験室に来ています。

ドアに書いてありますね。

高電圧実験室では、工場などの建屋の屋内外に設置される変圧器や碍子(がいし)、作業者が身につけるゴム手袋や長靴などの絶縁保護具・防具などについて、耐電圧試験を行っています。

いったいどのような設備で試験を行っているのでしょうか。さっそく高電圧実験室に潜入してみましょう……!



もはや雷?!過電圧を模擬試験できる「高電圧実験室」に潜入!

お話を伺ったのは、電気技術グループ 研究員の三井雅史さん。企業からの依頼を請け、高電圧に関するさまざまな試験を担当しています。

電気技術グループ 三井雅史さん

さっそくお話を伺おうと思ったのですが……。その前に、この巨大な装置たちはなんなんでしょう。まるでSF映画の中に迷い込んだようで……。

天井まで高さ15メートル。3階まで吹き抜けです。

三井「試験品に交流の高電圧をかけたり、雷インパルスと呼ばれる電圧や電流を流したりして、異常がないかを確かめるための装置です。たとえば手前にある白い筒状の装置は、500キロボルトまで交流の電圧をかけられます。家庭用コンセントの5,000倍ですね」

家庭用の5,000倍! まったく想像がつきません。体に電気がビリビリ流れて骸骨のシルエットが浮かび上がるような、ひと昔前のマンガっぽい絵だけ浮かびます。

三井「もっと奥にある背の高い装置は1,200キロボルト、雷を模擬した電圧を出せますよ」

普段は、企業の方には見学でご覧いただくことが多いというこの雷インパルス電圧発生装置。これを使って、金属3Dプリンタで出力した都産技研のマスコットキャラクター「チリン®」に雷インパルス電圧をかけたことがあるそう。

その様子を特別に見せてもらうと……。

2本の触角から怒りのビームが出ているよう

すごいインパクトです……! この「チリン」は金属の塊なので問題ないのですが、もし何の対策もなしに雷による過電圧・過電流が電源線や通信線をつたわって屋内外に設置された電気電子機器に侵入したら、故障や誤作動を起こしてしまって大変なことになります。家庭用コンセントタップにも雷保護のものがありますよね。「外で雷が落ちてもこのタップに接続した機器は保護できる」というのを確かめるには……やはり雷によるサージを模擬した雷インパルス電圧と電流を流さないとわからないわけです。

「それがこの装置です」。どこからどこまでがその装置ですか……?

三井「私が手を乗せているのが電源で、奥にいくつかある青い箱がコンデンサです。複数のコンデンサに電気を溜めて、真ん中に一気に放出することで、過電流を手前の銅板に流します。試験品はオレンジの箱の上に置いてありますよ」

扇状に配置された青い箱(コンデンサ)から、真ん中に一気に電気を放出して、大電流を左手前に流します。

小さな装置の性能を確かめるのに、ここまで大掛かりな装置を使わないといけないんですね……!ここまで大型の試験装置を持っている公設試は、都産技研だけだそう。「都内に限らず、北海道から九州までさまざまな企業さんから試験品が持ち込まれています」と三井さんは話します。

三井「ちなみに雷の電流の波形にはいくつか種類がありまして、そのひとつの『直撃雷』を金属にぶつけるとこうなります」

穴が空いてるじゃないですか。

空を飛ぶ航空機はまさに雷が直撃するので、こうした試験が欠かせないそう。「実験ではすごい音がするので、最初は怖かったですね」と三井さんは話します。逆に言えば今は大丈夫。人間って慣れるものですね。


壁に刺さっている「針金」の正体とは……

雷インパルス以外にも、高電圧実験室ではさまざまな試験を行っています。

たとえばこちらは、絶縁体の欠陥によって起こる「部分放電」を測定するシステム。
部分放電が起こっている様子を「超音波カメラ」で見せてもらうことに。部屋の奥から、まるで神社に置いてあるような立派な木製の柵が出てきました。

三井「20年以上前に試験中に感電事故が起こったことから、安全のために絶縁性能のある木柵で立ち入り範囲を制限しています」

安全を守るためには厳重な対策が必要ですよね…。

手渡されたカメラを装置に向けてみると……放電が起きている箇所が、サーモグラフィーのように赤く見えるのです。

三井「これは『超音波カメラ』といって、放電で発生した超音波を観測する装置です。変電所や工場の配電盤など、実際に機器が稼働している現場で部分放電が起きていないか確かめるものですね」

部分放電について、詳しくはTIRI NEWSをご覧ください。

三井さんは都産技研に入所して3年目。大学院では燃料電池の絶縁材料を研究していましたが、「研究だけをやりたくなくて」と公設試に就職したといいます。

三井「一人で黙々と研究をするよりも、外の世界を知りたいと思いまして。さまざまな試験品に触れられますし、試験を依頼される方の役に立てるところに、とてもやりがいを感じています」

とはいえ、最初は戸惑いもあったという三井さん。「アレが何か聞いたときはびっくりしてしまって」と壁を指差します。アレとは……?

壁になにか刺さっていますね……

三井「私が入所する前、高電圧の試験中に抵抗器が破裂したことがあったそうなんです。四方八方に破裂した巻線抵抗の破片が、壁に刺さったみたいで。試験中、試験者は部屋の外に出るので無事だったんですが……」

その後、壁を塗り替える機会があったのものの「戒めのために」と、この破片は残しておいたのだそう。それだけパワーがあるものを扱うわけですから、身が引き締まりますね……。

三井「そうですね。言い換えれば、この規模の設備だからこそできる試験もあるので、それもこの仕事の魅力だと思います。ぜひ学生の皆さんにも、こういう施設があることを知ってもらいたいですね」

取材のご協力、ありがとうございました!


電気技術グループをもっと知りたい方へ

高電圧分野では、変圧器、がいし、電気用ゴム手袋、長靴等の絶縁保護具・防具、電気電子機器等の耐電圧試験や雷インパルス試験などの各種試験や相談を行っています。お気軽にお問合せください。

その他の関連設備の紹介ページはこちら↓↓

お問い合わせ:電気技術グループ
電気技術グループ - 都産技研ホームページ (iri-tokyo.jp)