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都産技研でASMRを体験してみたら臨場感がすごかった

 こんにちは。都産技研の広報担当です。いま、座っている耳元でシャカシャカと音を鳴らされています。

(シャカシャカ、シャカシャカ……)

実はこれ、都産技研の設備で「ASMR」を収録しているんです。
 
サクサクしたものを食べる音や、耳かきの音など、臨場感ある音のゾクゾクする感じを楽しむASMR。YouTubeでも人気ですよね。
 
都産技研には「音のスペシャリスト」がいますし、音が響かない無響室などの設備もあります。最高の技術と最高の設備でASMRを収録したら、どうなるんでしょう……?
 
都産技研で音を扱う光音技術グループにおじゃまして、実際にやってみました。



音が響かない部屋で「人がどう感じるか」を測る

お話を伺ったのは、光音技術グループ 主任研究員の宮入徹さん。企業などから依頼を請け、製品から出る音を測定し評価する「音響試験」を担当しています。

光音技術グループ 宮入徹さん。おわかりかと思いますが右側です。

いきなり人形とのツーショットの写真を撮っておいてなんですが、このシンプルな広いお部屋は、いったいなんなんでしょうか……?

天井もすごく高いですが……。

宮入「ここは『半無響室』です。音を正確に測るための部屋ですね。壁と天井は音を吸収する素材でつくられているので、音が反響しないんですよ」
 
言われてみれば、すごく静か。まるで水の中にいるようです。自分の声が小さく聞こえるので、いつもより大きな声が出ちゃいます。なんだか不安になりますね……。
 
宮入「私たちは普段、壁や床から反射してくる音を頼りに生活しています。反射してきた音を聞いて、自分がどこに立っているのか、なんとなく把握しているわけです。だから、反射がないと不安になっちゃうんですよね」
 
コウモリが真っ暗な洞窟でも飛べるのって、超音波で周りの状況を把握しているからだと聞いたことがあります。人間にもそんな能力がちょっぴりあるんですね。
 
ではそろそろ、こちらの方もご紹介いただけますか……?

こちらの方

宮入「あ、これは『ダミーヘッド』です。人間の耳で音がどのように聞こえるのか、測定する装置ですね」

「この人形、両耳にマイクが入っているんですよ」
言われてみれば、鼻や口に比べて耳だけやけにリアル。

普通のマイクでも、もちろん音は拾えます。でも、企業が気になるのは、あくまでお客さんの耳。自分たちの製品から出る音は、お客さんに実際どう聞こえているのか……?
 
それを確かめるのが、宮入さんの仕事だそう。
 
宮入「実際に製品が使われる状況で、どのように音が聞こえるのかを、こうした装置で測るわけです。試験によって『人がどう感じるのか』を数値化し、モノづくりに役立ててもらっています」

「ちなみにあの扉、駐車場につながってます。ここに車を入れて、エンジン音や車内の音を測定したりもするんですよ」そんな大きなものまで!


360度すべてを吸音材に囲まれた「無響室」

続いて案内されたのは「無響室」。まずは部屋の様子をご覧ください……!

こちらが無響室。至るところに凸凹が……!

宮入「この凸凹しているのが吸音材ですね。ちなみに、床下にも同じように吸音材が設置されているんですよ」

床の格子の隙間から、わずかに吸音材が見えます。結構深い……!

さっきの部屋が「半無響室」で、ここは「無響室」。その違いは床面にあるようです。
 
宮入「半無響室は床面がコンクリートなので、下からは音が反射します。なので、床で音を立てると、音がドーム状(半球状)に広がっていくんですね。無響室は床にも吸音材があるので、下から音が反射せず、球状に音が広がるんです」

半無響室と無響室のイメージ。音を測る用途によって、部屋を使い分けるのだそう。

それにしても、音がまったく響かない「無響室」だけあって、耳の違和感がさらにすごいことに。ここで「アー!」と叫んでも誰にも届かないだろうな……という絶望感があります。

扉もこんなに分厚いですしね……

宮入「教授と学生で見学にいらっしゃると、教授だけ『耳鳴りがする』と言うときがありますね。あまりに周りが静かすぎて、耳の中のノイズのほうが大きくなっちゃうみたいで……」

「年を取れば取るほど耳って聞こえにくくなりますから」と宮入さん。筆者はまだ耳鳴りが聞こえていないことに、そっと胸をなで下ろしました。

 

いよいよASMR収録を体験!

では、いよいよこの無響室でASMRを体験させてもらいましょう。使うのは、こちらの特殊なヘッドセット。

一見、普通のヘッドセットですが……

実はこれ、両耳の外側にマイクがついている「バイノーラル録音」用のヘッドセット。人間がこれを装着すると、先ほどのダミーヘッドと同じように、耳のところで音を拾えるようになります。

……いや、これわざわざ人間がやる必要あるんですか? 耳のところで録音するなら、さっきのダミーくんにやらせてもいいのでは……?

宮入「バドミントンのラケットとか、人間が実際に体験しないと音が出ないものってありますよね。そういうとき、こうしたヘッドセットで実際に人の耳で録音することがあるんですよ」

なるほど! ではさっそく音を収録してみましょう。ヘッドセットを装着した筆者の耳元で、宮入さんが某ちいさくてかわいいキャラクターのケースをシャカシャカと振り続けます。

「じゃぁ録音スタートしまーす」

シャカシャカ、シャカシャカ……(あのケース、中に何が入ってるんだろう……?)

頭を上からまたいだり、後頭部を左右に行ったり来たりして、ひとしきりシャカシャカが続きました。

「これで収録ができました。この音をそのまま聞いてもらいます」と宮入さん。ヘッドセットをつけたまま、今度は普通に両耳から音を再生。すると……!

あ!こっちから鳴ってる!

録音した音声を皆さんも聴いてみてくださいね。

ヘッドホンまたはイヤホンでの視聴を推奨します。(再生環境によっては臨場感を体験しにくい場合がございます。)

さっきと同じように、右に左にシャカシャカが動いている……!
 
すぐそこで音が鳴っているのに、なにもない不思議。宮入さん、こっそりシャカシャカしてないですか!? と疑いたくなるほど。
 
無響室だからシャカシャカ以外の音はまったく聞こえないし、怖いくらいそのまま再生されています。ASMRとはまた違った意味でゾワゾワしますね……。
 
宮入「このヘッドセットで収録すると、付けた人に最適化された音になるんですよ。人によって背丈や頭の幅が違うので。その人に特化したASMRみたいな感じですね」
 
まさに自分専用ASMR! リアリティが桁違いなのも当然ですね。

宮入「こうしてリアリティがある形で収録できるので、このデータがいわゆる『サウンドデザイン』に活用されています。スポーツ競技の打音や家電製品の動作音などを、心地いい音になるよう設計したりするわけです」
 
最近ではVRコンテンツなどでも、こうしたリアリティのある音が使われているのだとか。没入感が大事ですもんね。
 
人間の耳に届く「リアル」な音を計測することで、さらにその音を良くすることができる。そんな奥深い音響試験の世界、もう少し詳しく教えていただけますか……?
 
 
【お知らせ】
次回は「潜入!都産技研」として、宮入さんのお仕事について詳しくお聞きします。「いい音を設計する」ってどういうこと? 宮入さんが音の世界に入ることになった、意外なきっかけとは?

お楽しみに!

後編はこちらから↓↓


光音技術グループ(音響技術分野)をもっと知りたい方へ

音響技術分野では、音響材料、低騒音機器、音響機器の開発を支援しています。
 
今回取り上げた「バイノーラル録音」用のヘッドセットについてや、音質評価のデモの様子は都産技研の広報メディア『TIRI NEWS』やYou Tubeでもご紹介しています。

お問い合わせ:光音技術グループ
音響 - 都産技研ホームページ (iri-tokyo.jp)


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