あなたの知らない!?「音の評価」の世界 ~潜入!都産技研~
都産技研ではどんな人がどんな研究をしているのか、実際に広報担当が潜入して確かめる「潜入!都産技研」。今回のテーマは「音の評価」です。
前回の記事で、ASMRを体験させてもらった光音技術グループ。普段は「音響試験」を担当しており、企業などからの依頼で、製品から出る音を測定し評価を行っています。
でも、「音の評価」ってどのように行うのでしょう。人間が心地良く感じる音と、不快に感じる音をどうやって測るのか……?
そこで前回に引き続き、光音技術グループに潜入。主任研究員の宮入徹さんにお話を伺いました。
小さい音でも「うるさい」と感じることがある
さっそくですが、宮入さんが担当している「音響試験」は、なにをどう評価しているんでしょう。この音うるさいな、みたいなことですか?
宮入「確かに、音の大きさ(デシベル)も評価のひとつですね。でも、デシベルが小さいのに『うるさい』とクレームになるケースもあるんです」
宮入「たとえば、部屋のどこかから甲高い音がうっすらと聞こえる……って、なんだか嫌じゃないですか?」
それは嫌ですね……。ストレスがすごく溜まりそうです。
宮入「高音の成分がどれくらい含まれているかも、音の評価ポイントのひとつ。この指標を『シャープネス』といいます。このように、実際に人間の耳でどう聞こえているかを数値で表して評価するのが、私が専門にしている『感性工学』なんです」
なるほど。そういえば半無響室を見せてもらったとき、人間の耳でどう聞こえているかを測る装置がありましたね。
宮入さんによれば、音がどう聞こえるかは年齢によっても異なるそう。
宮入「よく『年を取るとモスキート音が聞こえなくなる』といいますけど、普段の会話でも似たようなことが起きますよ。高齢者になると、会話の中で高い周波数の音が聞き取りにくくなるんですね」
そうなると、「よく聞こえないから大きな声でしゃべって」とお願いすることになります。でも、低い周波数の音は普通に聞こえるので、ただ大きな声で話されると、うるさく感じてしまうとのこと。
人が感じる音の大きさって、単なるデシベルとは違うってことなんですね。
宮入「そうなんです。人が感じる音の大きさは『ラウドネス』という指標で評価します。こうして、いくつかの指標で製品から出る音を評価して、『ここを改善すれば音が良くなりそう』という提案をするわけなんです」
時代が変わると、音をとりまく環境も変わる
ちなみに、企業からは普段どんな「音」が持ち込まれるんでしょうか……?
宮入「競技などのスポーツ用具の開発をお手伝いしたことがありますね。打ったときの音(打音)が大事みたいで、『音がいい』というのが売り文句になっていたりするんですよ」
宮入研究員の研究テーマについて詳しく知りたい方はこちらもご覧ください!
ほかにも、家電や車載製品の「スイッチを押したときの音」の設計をお手伝いしたことがあると宮入さんは話します。
スイッチを押したときの音ですか……? 「ピッ」とか「カチッ」とか、すごく小さな音のような気がしますが……。
宮入「最近は電気自動車の普及もあって、車の中が静かになってきているんですね。そうなると、タッチパネルを押す音も気になりますよね。時代が変われば、音をとりまく環境も変わるし、音の設計も変わるんです」
「良い音を設計する」と同時に、「不快な騒音を減らす」のも宮入さんの仕事。ゼロをプラスにするのと、マイナスをゼロにするのと、両方をやらないといけません。
宮入「掃除機なんか結構難しいですよ。音を小さくすればいいかというと、そうじゃないんです。あまりに音がしないと、『吸っている感』がなくなっちゃうらしくて」
確かに……! 何も音がしないのにゴミを吸っていたら、逆に気持ち悪いですね。
宮入「掃除機らしい音とはなにか、聞こえるけど不快ではない音とはなにか……と突き詰めていくと、最終的に『人間ってなんなんだ?』って考えちゃいます。面白いですよね」
「自分をかっこいいと思える仕事」をしたい
ところで、宮入さんはギターが趣味。以前はバンドでエレキギターを弾いていましたが、今は主にアコースティックギターを弾いているのだとか。
宮入「ギターを始めたのは高校からですね。高専に入ったんですけど……」
せっかく入ったのに何を言ってるんですか。高専だからあと5年ありますよ。
宮入「そうなんですよ。やばいなと思って(笑)。で、なんかつまんないからギターを始めたんですね。ACIDMANのコピーとかしていたんですけど、そのうち卒業後の進路を考えることになり……。音楽が好きだから、音の研究をしようかなと」
高専卒なので大学3年生から編入し、音響工学を研究する道を選択。卒業後、2012年に都産技研に入り現在に至ります。
ということは、あのとき普通に学校に馴染んでいたら、ギターを始めることもなく、音を研究することもなく……。
10年以上にわたり、中小企業を「音」から支援してきた宮入さん。最後に、音響試験に携わるやりがいについて聞きました。
宮入「実は去年、大学院の博士課程を修了したんです。企業の方々から寄せられる要望に少しでも多く応えたいと思って、改めて勉強しようと。身につけた知識が自信につながりましたし、なにより、企業の方々に提案できるバリエーションを増やせたのが、とても嬉しいですね」
最近は後輩も増え、自分が培ってきた技術を伝える場面も増えてきたと話します。
宮入「チームで考えることで、できることの幅も広がります。『良い音』で製品に付加価値をつけたいという要望に、今まで以上にしっかり応えていけたら。自分たちのことをかっこいいと思えるような、そんな仕事をしていきたいですね」
光音技術グループ(音響技術分野)をもっと知りたい方へ
音響技術分野では、音響材料、低騒音機器、音響機器の開発を支援しています。
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静かで会話がしやすい電動ファン付き呼吸用保護具(TIRI NEWS 2012年3月号)https://www.iri-tokyo.jp/uploaded/attachment/1780.pdf
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