スマホの充電ができない!?USBケーブルの断線が原因?~都産技研で調べてみた~
こんにちは、都産技研広報担当です。
都産技研の設備を使って実験し、技術を体験する企画。広報担当が臨場感交えてお伝えする「都産技研で〇〇してみた」のコーナーです。
スマホやタブレットを長時間持ち歩くことが多い今、外で充電残量がピンチ!になると焦りますよね。そんな時の必携アイテムとして便利なのがコンセントのないところで充電ができる充電バッテリー。そして、セットで必要なのが端末接続用のUSBケーブルです。
今回、デスクの奥から発掘されたUSBケーブルで充電しようと思ったら、うんともすんとも言わないことが判明…。その原因は何かを探るため、東京都昭島市にある多摩テクノプラザにやってきました。
まるで”レントゲン写真”。X線でUSBケーブルを見てみると……!?
訪れた場所は「電気試験室」。電子技術グループの新井宏章さんに、原因を調べてもらいました。
新井「今日はよろしくお願いします。どんなことでお困りですか?」
実はですね、このType CのUSBケーブルなんですが、充電しようとして端末に挿しても充電が始まらなくて・・・。どこか悪いんでしょうか?
新井「なるほど……(USBケーブルをしげしげみる)。もしかするとこれは、ケーブル内で断線が起っている可能性がありますね。X線CT装置で撮影し、内部の様子を見てみましょう」
そう言って新井さんが向かった先に、何やら大きな箱状の装置が…。
X線CT……ということは、病院にあるレントゲン撮影とかCTスキャンとか、そういう感じの機械なんでしょうか?
新井「まさにその通りですね。X線を照射することで対象物を透視し、内部を観察するための装置です。もちろん人体を見るわけでなく、ここでは主に電子機器の検査に用いられています」
そんな立派な装置で、こんな小さなものを見てもらっていいのでしょうか……。でも、百聞は一見にしかず。せっかくなので、新井さんに装置を動かしてもらいました。
新井さんは巨大な電子レンジみたいなフタを開け、中にUSBケーブルをセットします。
新井さんによると「下からX線を当てて、上にある検出器(300万画素)で試験品を透過したX線を検出する」のだそう。
筆者は小5で足を骨折したときこんな感じでレントゲンを撮られたのを思い出しました。
新井「上部にある検出器は、計測しながら回転させたり、斜めに傾けたりすることができます。これにより、対象物を立体的に見ることが可能です。また、このX線CT装置はX線源を試験品ギリギリまで近づけられるため、小さな電子基板も拡大して鮮明に撮ることができるんですよ」
なるほど!色々な角度で撮影ができるんですね。では、あのUSBケーブルはどう見えるのでしょうか……?
新井さんがマウスをスイスイと操作すると、画面の中央にケーブルの内部が映し出されました。
外側の薄い影がケーブルのコネクタ部分で、中にさらに4本の細いケーブルがあることがわかります。こんなにハッキリと、ピンポイントに内部を見ることができるんですね。
……って、あれ? これって……4本すべて断線していませんか!?
新井「マイクロフォーカスX線CT装置は、このように電子機器内部に断線やクラック(ひび割れ)がないか、はんだがきちんと付いているかなどを確認できる装置なんです。そうそう、たまに、あるはずのないものが写ることも……」
あるはずのないものが写る!? それってまさか……。
新井「いえいえ、そんな怖いものではなく、異物の混入ですね。お客さまの中には『いつもと違う海外ベンダから部品を取り寄せてみたが、元の部品と同等の構造・品質なのか』と、内部を確かめられる方もいるんですよ。そうした“真贋判定”にもよく使われます」
なるほど……。外からは同じように見えるけど、内部は思いもよらぬことになっている場合もあるわけですね。
どこが断線しているの?電気信号の流れを追ってみた
「マイクロフォーカスX線CT装置」を使い、電子回路の”レントゲン写真”を撮ることでUSBケーブルが断線してることを目で確認できた私たち。帰りに家電量販店に寄って新しいケーブルを買うことにしました。思わぬ出費です。
と、その前に。他にはどんな装置を使って試験を行っているんですか? と新井さんに聞いてみると、「ネットワークアナライザ」という装置もあるとのこと。
新井「ネットワークアナライザは、電子回路網に高周波信号を入力させた際に、回路内を伝送する信号の減衰量などを評価する装置です。簡単に言うと『回路に入った信号がどれだけ出口までたどり着けるか』や『どれだけ電気が通りにくいか』がわかるわけです」
新井「高周波用の電子回路網は、きちんと設計しないと回路の途中で高周波の信号が跳ね返ってしまうことがあります。回路の中で信号が反射すると、信号同士が干渉して波形が乱れ、誤作動を引き起こす可能性があるんですね」
「この装置をうまく使うと、断線した箇所もわかりますよ」というわけで、試しに断線したUSBケーブルと断線していないUSBケーブルを測定し、その結果を比べてもらいました。
同じケーブルを測ったはずなのに、波形が一致していない……ってことですか!?
新井「緑の波形が断線の無いUSBケーブルで、黄色の波形が断線有りのUSBケーブルになります。少々わかりづらいですが、波形の立ち上がりに差がありますよね。これは信号が反射する位置に差があることを示しています」
断線が起きているということは、信号の通り道が行き止まりになっているということ。信号が行き止まりで引き返す……つまり、反射してしまうので、こうして波形を見れば断線していることがわかるのだそう。
新井「この装置は『信号の入力から何秒経ったところで反射が起きている』こともわかるので、信号が反射する位置から断線箇所を特定することもできるんですよ」
ネットワークアナライザで「この辺が断線しているらしい」とわかったら、そこをマイクロフォーカスX線CT装置で撮影して「ほらやっぱり」と確かめることもできるでしょう。
こうした装置のおかげで、分解することなく不具合を発見できるというわけですね。
「ZEV」普及に向けたモビリティ産業支援事業
新井さん曰く、このマイクロフォーカスX線CT装置とネットワークアナライザは「ゼロエミッションに資するモビリティ産業支援事業」で導入されたとのこと。
そのゼロ……ゼロなんとかというのは、なんですか?
新井「ゼロエミッションとは、廃棄物の排出(エミッション)をゼロにするという考え方のことです。東京都は、2050年までにCO2排出を実質ゼロとする『ゼロエミッション東京』の実現に取り組んでいます。そのひとつが走行時にCO2を排出しない自動車、ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)の普及なんですね」
電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)などが「ZEV」にあたるといいます。
このZEVをはじめとするモビリティ産業について、たとえば車載機器・小型モビリティに関する技術支援に取り組んでいるのが、都産技研の「ゼロエミッションに資するモビリティ産業支援事業」というわけです。
新井「具体的には、電磁ノイズの影響を確かめるEMC試験のほか、走行距離向上のためにCFRP(炭素繊維強化プラスチック)による軽量化などにも取り組んでいます。X線CT装置も、『振動試験をした車載機器が壊れていないか』などを確かめるために導入されたものです」
今日ご紹介した2つの装置は、より信頼性が高い車載機器製品を開発するために用いるものだそうです。
新井「モビリティ産業支援事業として、EMC試験をはじめさまざまな観点からなる試験を組み合わせ、車載機器全体の安全性・信頼性を担保できるような試験装置を準備しています。ぜひ、多摩テクノプラザに導入された最新の機器を活用していただけますと幸いです」
「ゼロエミッションに資するモビリティ産業支援事業」の取り組みについて詳しくは、TIRI NEWSでもご紹介しています。ご興味のある方はぜひそちらもご覧ください!
電子技術グループをもっと知りたい方へ
電子技術グループでは、EMCサイト(電波暗室)および多摩テクノプラザ本館の電子計測設備を使用して、皆さまの製品開発の支援を行っています。
モビリティEMC分野、電子応用分野の2つの分野で構成され、設計から試作、評価までの各工程に係わる技術相談、依頼試験、機器利用、オーダーメード型技術支援などを承っております。
各種試験設備、測定機などのご活用をお待ちしております。