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謎の真っ白い部屋の正体は!? 「10 m法電波暗室」に迫る~私の推しマシーン~

都産技研が保有する機器や設備には、高価なものや日本でここにしかないものも。そんな“レアもの“の魅力をお伝えする、「私の推しマシーン」のコーナーです。

今回のテーマは電子技術グループの「10 m法電波暗室」。 いったいどんな設備なのでしょう? 東京都昭島市にある多摩テクノプラザを訪ねました。



小学校のプールぐらい広い「電波暗室」とは?

今回、10 m法電波暗室を推してくれたのは、電子技術グループの須藤翼さん。さっそくお話をうかがいます。そもそも電波暗室とは、なんですか?

電子技術グループの須藤 翼さん

須藤「電磁波関連の試験を行うための設備です。外部から放射された電磁波の影響を受けず、かつ内部で自身が発する電磁波が反射しないようにつくられた実験室ですね。まずは、実際に見ていただきましょうか」

というわけで、先導する須藤さんについていくと、多摩テクノプラザの敷地になにやらポツンとたたずむ建物が。中に入ってみると……。

真っ白で広大な空間が……!

須藤「ここが10 m法電波暗室です。部屋に試験体を置いて、電磁波の計測を行います。ちょっと扉を閉めてくるので、スマホを見て待っていただけますか」

言われたとおり、じっとスマホを見て待っていると……。

さっきまで4本立っていたアンテナが圏外に!

須藤「どうですか? 電波が入らなくなりましたよね? 電波も電磁波の一種であり、『外部からの電磁波の影響を受けない』というのは、こういうことなんです」

須藤さんが扉を開けると電波が復帰しました。なるほど、そういう部屋なんですね。

須藤「天井と壁には電波吸収体が設置されており、室内で発生した電磁波は吸収されます。外から電磁波が入ってこず、壁で跳ね返ってもこない。試験環境としては、周囲に何もない空間が無限に続いているイメージになります」

余計な電波が入ってこない、無限に続く何もない空間……。携帯電話やラジオ、Wi-Fiなどさまざまな電波が飛び交っている世の中、きちんと電磁波を測るには、ここまでの設備が必要なんですね。

……って、あれ? 「天井と壁に電波吸収体がついている」ということは、床は電波を吸収しないんですか?

須藤「そうですね。地面は必ずあるものなので、通常の環境を模擬するために普通の床になっています。床まで無限に広がる空間にすると、試験体が宙に浮いていることになるので(笑)」

天井と壁には白いボコボコしたパネルがついています。

なるほど、この白いボコボコが電波を吸収するのか……と、まじまじと見ていたら、須藤さんから「あ、それはただの飾りです」という言葉が。これ飾りなんですか!?

須藤さんは「本当の電波吸収体は中にあるんですよ」と、壁からなにかを引っ張り出しました。

この黒いとんがった物体が電波吸収体です。思ったより大きい。

須藤「本当はこれが天井と壁いっぱいに付いているんです。ただ、電波吸収体がむき出しの状態だと、部屋が暗くなりますし、トゲトゲして圧迫感があるので、こうして白いパネルで覆っています」

確かに、トゲトゲだらけの部屋を想像すると、天井や壁が迫ってきそうでちょっと怖いですね……。


電磁波による誤動作を防ぐために

それにしても、この大きな電波暗室でどんな試験をするのでしょうか。

須藤「EMC試験※といって、『製品から強い電磁波が放出されていないこと』『外からの電磁波などを受けて誤動作をしないこと』を確かめる試験がメインです。家電をはじめ、医療機器や車載機器など、電子機器を安全に扱うために欠かせない試験なんですよ」

※EMC試験=Electromagnetic Compatibility:電磁両立性試験の略称。

「パソコンにもEMC試験を合格したマークがついてますよ」と須藤さん
① 欧州のCEマーキング(左端)、②日本のVCCI(中央)、③アメリカのFCC(右端)など、国や地域ごとにEMC試験の規格があります 。

強い電磁波を出して周囲の機器に影響を与えたり、逆に電磁波の影響を受けて誤動作を起こしたりしたら大変です。製品を世に送り出す前に、きちんと確認をしているんですね。

須藤「EMC試験は、規格によって試験方法などが細かく決まっています。なかには『こうした機器は試験体とアンテナを10 m離して試験すること』といったものも。なので、あのような広さの電波暗室が必要なんです」

左が試験体を置くテーブル、右が電磁波を受信するアンテナ。テーブルの高さやアンテナとの距離、ケーブルの束ね方など、EMC試験の規格に細かく決められているそうです。

10 mも先からの電磁波の影響を考えないといけないとは、その厳密さに驚きです。さらに須藤さんによると、医療機器や車載機器の規格はもっと厳しいのだとか。

須藤「医療機器や車載機器の誤動作は人命に関わります。また、市場に出回ってからリコールが発生すればコストも膨大にかかってしまう。『民生機器』とは厳しさのレベルが桁違いとなります。我々もプレッシャーと向き合いながら対応しています」

ちょっと待ってください。その『民生機器』ってなんですか?

須藤「民生機器とは、コンシューマー向けの家電機器やマルチメディア機器などのことで、もっと言えばパソコンやスマートフォンなど家庭で使用される電子製品のことを指します。そもそも、電子機器と一言で言っても、EMCの世界では民生用、産業用、医療用、車載用…などに分類されているんですね。それぞれの機器の使用環境や用途などに応じてクリアすべき規格の基準も変わるというわけなんです」

なるほど。多摩テクノプラザへEMC試験をしに来られる方の製品も多種多様なので、どんな機器の相談があっても対応できるように、幅広い知識を持っている必要がありそうですね。

車載機器の場合、試験体とアンテナの距離は1 mメートル。須藤「アンテナの向きを変えて、垂直方向と水平方向の2通りを測ります」
車載機器の計測では、試験体を乗せる木製のテーブルに銅板を貼り合わせます。これも車のボディ(金属製)を模擬するためなのだとか。


「測って終わり」ではない強み

ここで改めて、須藤さんに10 m法電波暗室に感じる魅力について聞いてみました。

須藤「関東で最大級となる10 m法電波暗室なので……。やはりその大きさですね。初めて来たときは皆さんと同じように『でかっ!』と声が出ました(笑)」

須藤さんはEMC試験に携わって10年、多摩テクノプラザで車載機器を担当するようになってから3年ほどだそう。

EMC試験についてはベテランの域ですが、「各種規格や不具合が起きたときの対策など、まだまだ勉強すべきことは多く、この分野の奥深さを感じています」と話します。

測定室のパソコンやディスプレイなどの電磁ノイズが電波暗室に入るため、電波暗室の扉で閉めてモニターで中を観察しながら遠隔で計測を行います。

製品を設計するときに、しっかり電磁波の対策をしたつもりでも、EMC試験で実際に測ってみるとNGになることも多いそう。

規格がより厳格な医療機器や車載機器は、電磁波の影響で誤動作を引き起こした場合に人命を脅かす危険もあることから、小手先の対策では通用しません。せっかく製品が完成したのに、設計から見直すことになるので、企業にとっては大きなタイムロスになるのだそうです。

須藤「EMC試験の怖いところですね……。都産技研では、規格の詳細や対策内容について相談を承るだけでなく、設計段階から使えるシミュレーターも用意しています。上流工程で問題を見つけられれば、手戻りのコストも減らせますから」

須藤さんとしても、問題を解決することでお客さまのお役に立てると、嬉しいんじゃないですか?

須藤「本当にそうですね! 対策がうまくいったときは、すごく感謝されるんですよ。ゴールデンウィーク直前に切羽詰まって来られたお客さまから、『これで連休はゆっくり寝られます』とお礼の言葉をいただいたこともあります」

「対策が難しそうな状況になると、逆に職人魂がうずきますね(笑)」

須藤「製品の上市に関わるという点で、都産技研のEMC試験は中小企業の方々に貢献できているのではと思います。『測って終わり』ではない、現場に寄り添ったサポートが強みですので、ぜひご相談いただきたいですね」

取材のご協力、ありがとうございました!


電子技術グループをもっと知りたい方へ

電子技術グループでは、EMCサイト(電波暗室)および多摩テクノプラザ本館の電子計測設備を使用して、皆さまの製品開発の支援を行っています。

モビリティEMC分野、電子応用分野の2つの分野で構成され、設計から試作、評価までの各工程に係わる技術相談、依頼試験、機器利用、オーダーメード型技術支援などを承っております。

各種試験設備、測定機などのご活用をお待ちしております。

お問い合わせ:電子技術グループ - 都産技研ホームページ (iri-tokyo.jp)
TEL 042-500-1267

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