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長さ・温度・電気の「計量のプロ」大集合! JCSS認定校正の舞台裏を聞いてみた

こんにちは、都産技研の広報担当です。なにやら青い箱を見せていただいております。

なんですかこれは? 横に空いた穴から何か入れてますね。
中は真っ赤ですけど……と思ったら「だいたい1000℃です」とのこと。熱い!

聞けばこの装置の名前は「熱電対自動校正装置」。熱電対という温度センサーの校正をするための装置なのだそう。

こちらが熱電対。この先っちょが先ほどの熱々ゾーンに入っています。

世の中にあるさまざまな測定機器は、「私、本当に正しい値を示してるんですよ」と証明するために、より正確な測定機器による「校正」が必要になります。

つまりこの装置は、温度計が示す「1℃」は本当に「1℃」なのか? ズレているとしたらどれくらいズレているのか? を確かめるものなのです。

そこで今回は、校正作業の裏側に密着。都産技研における「計量のプロ」、実証試験技術グループのJCSS対応チームの皆さんにお話を伺います。



1000℃の高温で熱電対を校正する

最初にお話を伺ったのは、実証試験技術グループ副主任研究員の倉持幸佑さん。温度と電気の校正業務を担当しています。

実証試験技術グループ 副主任研究員 倉持幸佑さん

倉持「先ほどの熱電対は工業用の温度計なので、校正を依頼される熱電対も製造現場で使われているものが多いですね。熱電対自動校正装置はJCSS認定校正に対応しており、200℃から1000℃までの範囲で校正を行っています」

JCSS(Japan Calibration Service System)認定校正とは、一般的な校正より厳密な基準で行われる校正であり、その結果は全世界に通用するもの。

都産技研では「温度」「電気」「長さ」の3つの区分でJCSS認定校正に対応していて、校正証明書の発行を行っています。


…ってこの話、なんだか聞いたことあるぞという方、前回の記事をご覧いただきありがとうございます! そうです、「三次元座標測定機」の記事で、「長さ」のJCSS校正の話をしましたよね。今回はその続きです。

それにしても1000℃もの高温を測るなんて、準備も大変なんじゃないでしょうか。熱々になるまでどれくらい時間がかかるんでしょう?

倉持「室温から1000℃まで上げて、電気炉の内部や熱電対の温度が安定するまで、だいたい1時間くらいですね。実は温度が高い方が安定しやすく、200℃だと安定するまで3~4時間かかります。温度が低いと、室温の影響を受けやすいので」

確かに1000℃になってます。

3~4時間も待っているの退屈じゃないですか、と聞くと、「スタートから測定までは自動で行われますし、ほかにやることも多いので」とのこと。すいません、ボーッと待ってるわけじゃないですもんね。

倉持「JCSSほどの高い精度を求められない校正もありますし、このあと紹介する電気関連の校正もあります。ですので、ボーッとしている時間はないですね(笑)」

倉持「忙しいときは同時に複数の測定装置を動かすこともあります。体が足りる限りですが(笑)」


0.0000001Vまで測れる測定器

続いて案内されたのは、電圧や電流の校正を行う部屋。ちょっとひんやりしますね。

倉持「この部屋自体が恒温槽になっていて、室温が23℃プラスマイナス0.5℃に保たれています。電気は温度変化の影響を受けやすいんですよ。特にJCSS認定校正は精度が求められますから」

JCSSの「電気」区分で校正するのは、こうした電圧計や電流計などの計測器。

そんなにシビアなものなんですか? と半信半疑な我々に、倉持さんは「これが校正の基準となる、直流電圧の標準器です」と指差します。そこに表示されていたのは……。

0.0000001V……!?

そんな細かい単位まで測るんですか……! そこまで厳密に測ったら、どんな測定器もちょっとくらいズレていますよね……?

倉持「ズレていてもいいんです。大事なのは、校正によってどれくらいズレているかを認識すること。ズレた分をきちんと補正すれば、ちゃんと測定器として使えますから」

こちらは標準抵抗器。10キロオームや100キロオームなど、一定の抵抗値で安定しています。

都産技研がJCSSの認定を取った第1号が、標準抵抗器なのだとか。JCSSに認定されるのって、なにがそこまで大変なんですか?

倉持「技術的な環境はもちろん、書類の準備も大変でしたね。評価手法や装置の管理についての手順書や、受付から報告書発行までの手順書など、種類がとても多いんです。準備までに1年以上はかかりました」

部屋の奥には、ほとんど骨董品のような装置(シャント抵抗器)も。なんと、東京市電気研究所(大正13年設立)時代にも使用されていたものだそう。

倉持「これでもちゃんと現役で使えるんです。最新型と比べて同等の精度をもっています。古いものほど安定してたりするんですよ」

このシャント抵抗器については、過去のTIRI NEWSでもご紹介しています。興味のある方はぜひご覧くださいね!

TIRI NEWS 2020年8月号 P.10


校正作業で大変なことは……腱鞘炎!?

さて、ここからは部屋を移動して、実証試験技術グループで「長さ」「温度」「電気」のJCSS校正を担当する皆さんに集まっていただきました。倉持さんと、前回ご登場いただいた副主任研究員の三浦由佳さん、そして三浦さんと同じく「長さ」を担当する主任研究員の中西正一さんです。

(左から)中西正一さん、三浦由佳さん、倉持幸佑さん

みなさん、校正のお仕事は結構長いんでしょうか?

全員「うーん……」

みなさん遠い目をされていますが。

三浦「結果的に長くなっちゃいましたよね。10年ぐらいやってるかな」

中西「ここに来る前からずっとやってるからなぁ……。20年?25年?」

三浦「知らないですよ(笑)」

昔と比べてどうですか? と聞いてみると、「校正の需要が増えてきた」とのこと。求められる品質のレベルが上がっているうえ、装置自体の測定能力もどんどん向上しているので、依頼される件数も対象物の種類も増えているのだとか。

では、日ごろのお仕事で大変なことはなんですか?

倉持「日々の依頼をこなすのも大変ですけど、標準器を管理するのも大変ですね。年1回くらいの頻度で点検をするんですが、なにぶん数が多いので……」

三浦「大変なこと……。測定方法や実験データの検証が難しいものもあるけど、長くやってるからか、大変だと思わなくなりましたね。麻痺しちゃってるのかも(笑)」

中西「JCSSは英文の校正証明書も発行するので、校正結果とか環境とかを英語でまとめるのは大変ですね。あとは腱鞘炎かなぁ(笑)」

腱鞘炎!? 校正作業で腱鞘炎って、どこでどうやってなるんですか!?

中西「測定装置のひとつに、手動でダイヤルを回して高さを合わせるものがあるんですよ。それがダイヤル1回転につき、0.1ミリしか上がらない。20ミリとか30ミリ上げようとすると、ひらすら回さないといけなくて」

後ほど装置を見せてもらいました。「このダイヤルをひたすら回すんですよ!」


確かに、グルグルグルグル回してもちょっとしか上がりません……。

中西「測定ポイントが、0.1ミリから100ミリまで30ヵ所くらいあるんです。それを3回繰り返してやっと1回の校正が終わるので、もう大変ですよ(笑)」

中西「回しているあいだずっと『もっとうまい回し方ないかな』って考えています(笑)」


品質保証の「縁の下の力持ち」であること

JCSS校正チームのお悩みのひとつが、JCSSの認知度の低さ。展示会に出展していると「都産技研でやっているの?」と驚かれることもあるのだとか。

三浦「なので、展示会は頑張って毎年出すようにしています」

中西「会場で測定はできないので、校正の様子を動画で流したり、パネルやチラシをつくったり……。あとキャッチフレーズも毎回自分たちで考えて決めています。コンペ式で、みんなでいろんな案を出してね(笑)」

チームで会議したのか、ホワイトボードにもこんなキャッチフレーズが書いてありました。

展示会でのアピールの成果もあってか、近年はJCSS校正の対応件数が増えているんだとか。実証試験技術グループ長の沼尻さんはこう語ります。

実証試験技術グループ グループ長 沼尻治彦さん

沼尻「企業のお客さまの間で口コミが徐々に広がっていますね。このグラフを見ても、おかげさまでJCSS校正証明書の発行枚数が年々、右肩上がりに増え続けているんです」

電気・温度・長さを含めると、年間の校正証明書の発行枚数は200~250枚以上。コロナ感染症の影響が広がった2020年を除き、その数は徐々に増えているんだとか。

沼尻「2016年度から記録を取り始めて、2024年度は校正証明書の発行数がこれまでで一番早く100枚の大台に達したんです。先ほど倉持さんが言ったように、JCSSの校正証明書の発行には表に出てこない作業が多々あり、記載する数値や内容も厳密な精度を求められるため、非常に神経を使います。これだけの枚数、これほど早いペースでJCSSの校正証明書を発行できるのは、都産技研以外ではなかなかないのでは?手前味噌かもしれませんが……」

皆さん、グループ長もべた褒めじゃないですか。

中西「目標達成に向けて、チーム皆でゼイゼイ、ヒィヒィ言いながらやってます(笑)。大変ですが、お客さまからの期待と信頼に応え続けるためにも、精度の高い証明書を出せるように常に気を付けていますね。あとは……、約束した納期は絶対守るようにしています」

本当に大変なお仕事ですね……。頭が下がります。

ちなみに、校正のお仕事をしていると、家の定規の目盛りとか気になったりしないんですか? 「これ本当に1cmなの?」とか、職業病が出てきそうで。

倉持「街中に温度計があると見ちゃいますけど……。そこまで気にするほどではないですね」

三浦「長さもあまり気にしたことはないかなぁ」

中西「プラスチックの定規でも、日常生活レベルだったら全然大丈夫だもんね。職場はもう、ミクロンの話だから」

三浦「そうそう、だから逆に気にならない。そもそも見えないし(笑)」

あまりにも精密な世界で仕事していると、逆に日常生活では気にならなくなるんでしょうか。面白い発見です。

三浦「職業病っていったら寒さに強くなるくらいかも」 中西「20℃の環境に慣れる(笑)」

それにしても皆さん、普段からこんな感じなんですか。すごく和気あいあいとした職場ですね!

中西「でも仕事はみんな、1人で黙々とやってるんですよ。だから集まったときぐらい、こんな感じじゃないとね」

三浦「たまっていたものが出ちゃう(笑)」

それでは最後に、校正の仕事の面白さや、やりがいについて教えてください。

中西「……なんかでっかいことを言った方がいいよなぁ、ここは(椅子ごと移動する)」

三浦「ちょっと、なんで取材側のほうに行くんですか!?」

では三浦さん、よろしくお願いします。

三浦「そうですね……。私たちが校正した計測器が、企業では品質を保証するために使われています。特に近年は、自動車や医療、航空宇宙などで、JCSSが要求される場面も増えてきました。さまざまな製品が世界に羽ばたいていく、その『縁の下の力持ち』であることが、この仕事のやりがいじゃないでしょうか」

中西「装置も新しいものがどんどん出てくるし、我々もアップデートしていかないとね」

倉持「世の中の需要に合わせて、新たな校正方法の研究も必要ですしね。JCSS認定範囲も、さらに拡大できたらと思います」

中西「目指せ!何でも測れる都産技研!!」

取材ご協力、ありがとうございました!

実証試験技術グループをもっと知りたい方へ

今回ご紹介したJCSSは、「都産技研での認定校正」ページで詳しくご紹介しています。

実証試験技術グループは、4つの担当分野(環境試験、電気・温度試験、製品・材料強度試験、長さ・形状測定)から構成され、信頼性評価、故障解析、動作解析や環境試験などにより、高品質・高性能な製品開発を支援(試験、研究)しています。

お問い合わせ:実証試験技術グループ
実証試験技術グループ - 都産技研ホームページ (iri-tokyo.jp)