壊さずに中を見る!X線非破壊検査~私の“推し”マシーン~
こんにちは、都産技研広報担当です。
突然ですが問題です。こちらの画像は何を撮影したものでしょうか?
なにか黒いものが渦を巻いています。そして、その先端が右下から飛び出しているような……?
はたして正解は……!
先ほどの写真は、対象物を壊さずに内部の構造を分析する「X線非破壊検査」によって撮影されたもの。いったいどんな装置によって撮影されたのでしょうか?
今回の「私の“推し”マシーン」は、X線非破壊検査に密着。計測分析技術グループ主任研究員の河原大吾さんと、副主任研究員の瀧本悠貴さんにお話を伺いました。
電子部品や文化財、おにぎりまでスキャン!?
先ほどのメジャーの写真、なんだか空港の手荷物検査みたいでしたよね。自分のスーツケースがあんな感じにスケスケに見えたのを思い出しました。
河原「まさにそんなイメージですね。スーツケースを開けずに中身を確認するように、X線非破壊検査も物を壊さずに内部を見るわけです。工業分野のX線非破壊検査は、もともとは、溶接がきちんとできているかをチェックするために広がった技術なんですよ」
河原「レントゲン写真と同じように、X線が対象物にさえぎられたところは白く写り、そうでないところは黒く写ります。つまり、溶接部分に黒いツブツブがあるということは、X線が周りの溶接部分よりも突き抜けている=溶接したときに気泡が入って空洞になっている、ということになるんです。これはつまり、対象物の内部にきずがあるということ。このように、周りの健全な部分と比べて差があるところを見つけることで、対象物を壊すことなく内部の欠損を確認できるんですね」
逆に、白いツブツブはそこだけ溶接が盛り上がっているか、異物が混入している可能性があるそう。そんなことまでわかるんですね。
それにしても「レントゲン写真と同じように」ということは……結局、やっていることは人間のそれとおんなじ、ということなんでしょうか?
河原「基本的には同じですが、X線非破壊検査は人体に比べて撮影対象が多岐に渡るので、撮るものに応じてX線の強さを調節する幅がより大きくなるんです。X線が弱すぎるとすべて真っ白になってしまいますし、強すぎるとすべて突き抜けて真っ黒になってしまいますから。時にはもっと強いX線を使わないといけなかったり、何十分もかけて撮影することもありますよ」
X線非破壊検査に持ち込まれるのは、小さな電子部品から大きな建築部材までさまざま。楽器や美術品、文化財が持ち込まれることもあるそう。
材質も厚さもバラバラだから、検査のたびに「ちょうどいい感じのX線」を探って設定しないといけないんですね。
瀧本「先輩から聞いた話では、おにぎりのCTスキャンを撮影したこともあったようです。人気のおにぎり屋さんが握ったおにぎりと、素人が握ったおにぎりはなにが違うのかと(笑)」
どんな違いがあるのでしょうか?
CTスキャンで内部構造を3Dデータに!
ではここで、X線非破壊検査の設備を見せていただきましょう。まず案内してもらったのは都産技研本部1階にある「X線透過試験室」です。
河原「この部屋は厚さ60 cmのコンクリートで囲まれています。X線が外に漏れないので、広い場所で高エネルギーのX線を照射することができ、コンクリート柱や配管といった大きなものにも対応しています」
河原「撮影領域が1 m以上と広いので、壁や天井で跳ね返ってきたX線の影響を受けにくいという利点もあります。お医者さんが着るような、放射線を防ぐエプロンの性能評価などもここで行っていますね」
続いて、2階の「バイオ計測・評価実験室」にやってきました。最初に見せてもらった装置がこちらなのですが……。
なんですかこの装置は? 時でも越えるのでしょうか。
瀧本「いえいえ(笑)。サンプルを360度回させながら連続撮影して、3次元で内部の構造を分析できる装置なんです。さっそくやってみましょうか」
瀧本「面白いですよね。バイオリンなども木目まで見えますし、仏像をスキャンしたら中に巻物が入っていたこともありましたよ」
河原「360度回転させながら撮影した画像をもとに、コンピューターが『この点はこっちから見るとこうなってて、あっちから見るとこうなってるから、3次元で考えるとこうなっているはず』というのを全部計算するんです。このように、ある点にある物質や状態を色々な方向から撮影した画像をもとに測定する技術。これがComputed Tomography(コンピューター断層撮影)、略してCTと呼ばれる技術なんですね」
病院にあるCTスキャンの「CT」って、そういう意味なんですね!
でも、病院のCTスキャンは患者が360度回ったりしないような……? と思ったら、「そちらは装置のほうが回るんですよ」とのこと。なるほど。
瀧本「最近では、CTスキャンがリバースエンジニアリングに使われることも多いですね。既存製品の3Dデータを元に、金型を改良したり、シミュレーションを行ったりなどして、新たな製品開発に利用されているようです」
さまざまな撮影に対応できる強み
「バイオ計測・評価実験室」には、ほかにも「高精度マイクロフォーカスX線CT」や「高分解能X線CT」といった装置があるそう。
先ほどの装置は「高エネルギーX線CT」でしたし、なぜそんなにたくさん「X線CT」があるんですか?
瀧本「それぞれ分解能(どれくらい細かく撮影できるか)やX線の透過能力が違うんです。マイクロメートルからミリメートルの単位で撮影できる3種類の装置を備えているので、電子部品からエンジンまでさまざまな試料に対応できるんですよ。3種類ある公設試は珍しいようで、他県からもお客さまがいらっしゃいますね」
不具合の原因を探ったり、新たな製品づくりに役立てたり、内部を透視することで製品を“次のステップ“へ導くX線非破壊検査。最後に、お二人に仕事のやりがいについて伺いました。
河原「検査に持ち込まれるものは多種多様で、種類も形状も見つけるものも毎回異なります。こういう形でこの状況なら、この方向からこの量のX線を当てれば……と考えて、その“読み”が当たったときは、謎を解いたような嬉しさがありますね」
瀧本「お客さまがまったく想定していなかったところが故障箇所だった、ということもありますしね。見えないものを見るからこそ、“まさか”ということも起こる。そうした想定外の状況を明らかにできるのが、この仕事の醍醐味だと思っています」
計測技術グループをもっと知りたい方へ
今回ご紹介したX線CT装置や、計測技術グループの支援事例は都産技研の広報メディア『TIRI NEWS』で詳しくご紹介しています。
計測分析技術グループは、顕微鏡を用いた微細構造観察、材料の構造解析や組成分析、X線非破壊検査や放射線計測などの技術を通じ、中小企業による研究開発や技術課題の解決を支援します。