あなたの知らない!?「繊維」の世界〜潜入!都産技研〜
都産技研ではどんな人がどんな研究をしているのか、実際に広報担当が潜入して確かめる「潜入!都産技研」。今回のテーマは「繊維」です。
季節はすっかり冬になり、ニットなどの冬物を引っ張り出した方も多いでしょう。でも久しぶりに出した服をよく見ると、身に覚えのないシミや穴開きに気付くことも。いったいどうしてこんなことに……?
そこで今回は、繊維製品を専門に扱う複合素材技術グループに潜入。シミや穴開きの原因はなんなのか、繊維製品の品質はどうやって確かめるのか、意外と知らない「繊維の世界」について聞いてきました。
真実を追え!繊維のミステリー
訪れたのは、東京都昭島市にある多摩テクノプラザ。多摩地区で古くから盛んな繊維産業の技術支援を手がけています。複合素材技術グループの副主任研究員、池田紗織さんに話を聞きました。
今日はよろしくお願いします。こちらではどのような試験をしているんですか?
池田「繊維製品の試験や評価を行っています。特徴的なものとして、『クレーム解析試験』といって、企業から持ち込まれた繊維製品の事故解析を行っています」
たとえば、クリーニング店がお客さまから『返ってきた服が変色していた』というクレームを受けたとします。クリーニング前にはなかったはずだけど、変色の原因が分からない……。そうしたときにクレーム解析試験を依頼して、原因を究明するのだそう。
では、繊維製品で起こる事故には、どんなものがあるのでしょうか。実際に池田さんに見せてもらいました。
確かに、着古したTシャツはこんな感じになりがち。これって首についた汗や汚れが原因なんですか?
池田「汗だけじゃないんです。これは通称『汗耐光』(あせたいこう)といって、汗がついた状態で光があたると起きる変色なんですよ。Tシャツやスポーツウェアでよく見られますね」
池田さんは街を歩いていても「あの服、汗耐光だ」と分かるそうです。職業病ですね。
池田さんのバンギャ時代も気になりますが、このネクタイにも気になるシミがあります。
その正体を知るため、顕微鏡で拡大して見てみましょう。
池田「これはマニキュアでしょうね。ピンクとシルバーのラメが入ったものを、当時塗っていた覚えがありますから。ただ、企業から依頼されるクレーム品には、こうした前情報がないことがほとんど。繊維製品になにが起きたのか、一から考えないといけないんです」
繊維製品にはシミや汚れ、穴開きといった不具合があります。その原因が分かれば、クリーニング店で発生したのか、お客さまのところで発生したのか、はたまた生地や製造工程に原因があったのか、責任の所在を判断しやすくなるのです。
原因を確かめる方法はさまざま。顕微鏡で拡大したり、試薬や分析装置を使って成分を調べたり、ときにはメーカーから新品の生地を取り寄せてもらうことも。
限られた材料から仮説を立て、真実を探し当てる……。まるでミステリー小説ですね!
クイズ!このシミなんのシミ?
ここで、実際に繊維のミステリーを体験させてもらいました。 このシミは、いったいなんのシミでしょうか?
①は一見新品のようですが、よく見ると全体的にうっすら黄ばんでいます。②は何かで塗ったような……クレヨンとか?
池田「おっ?」
なんらかの文房具ですかね? ペンとか……。
どうやら正解に近づいているようですが確証が持てません。③は醤油かなにかにドボンとつけた感じ、④は土ぼこりかな……?
すいません、正解発表をお願いします。
池田「難しかったですよね。②はご想像のとおり、油性ペンです。④は土ぼこりではなく、鉄さびをこすりつけたもの。鉄さびがついた布を酸素系の漂白剤で洗ってしまうと、布に穴が開くことがあるんですよ。鉄が触媒になって、漂白剤の働きを強めてしまうんです」
①は、アスリート向けのアミノ酸&プロテインの飲料を染みこませ、熱をかけたもの。食べこぼしなどの食品のシミは、乾燥機などで熱が加わると色が変わってしまうものがあるのだとか。
そして③は醤油ではなく、アクリノールという消毒液でした。もとは鮮やかな黄色なのですが、塩素系の漂白剤で処理するとこのような茶色になり、かえって色が落ちなくなるそう。
慌てて汚れを落とそうとして、かえって逆効果になってしまうことが結構あるんですね……!
都産技研では、繊維製品のクレーム解析試験を長年実施してきました。試験担当者によって蓄積されてきた事故事例やその解析方法はまさに知識の宝庫。試験を進めるなかで「過去の事例からくまなく学ぶ」重要性を池田さんは痛感したそうです。
池田「過去の解析事例を検索できるデータベースを整備し、試験方法やノウハウをまとめて未来の担当者にもわかりやすいようにまとめておく、といった取り組みを通じて、試験品質の向上に努めています」
生地をあえて“痛めつける”装置!?
クレームが起こらないような繊維製品を世に送り出すためには、さまざまな評価試験が不可欠。繊維製品の性能を確かめる試験機を見せてもらいますが……見たこともない機械がたくさん並んでいます。調べたい性質に合わせて、試験機があるんですね。
池田「それはスナッグの試験機ですね。生地を引っ掻いたときにできる“引きつれ(スナッグ)”を確かめる装置です。生地を回転させることで針を引っかけて、わざと痛めつけるんですよ」
生地を傷める試験機は他にも。こちらはピル(毛玉)をつくる試験機です。
池田「試料を入れた箱を回すことで、箱の内側(コルク)や、試料どうしがこすれて毛玉ができるしくみです。ニットなら5時間、織物なら10時間は回し続けますね」
つまり、この装置で「どれくらい毛玉ができやすいのか」がわかるわけです。
ピリング試験では、毛玉のサイズや量に日本産業規格(JIS)で定められた等級があり、どれに当てはまるのか、判定用見本とサンプルを見比べて目視で判断するんだそう。経験がものを言う世界ですね……。
池田「繊維の試験は、重さや長さのような”物理量”だけではなく、特定の方法で測った”工業量”や、人間が判定する”感覚量”で評価することも多いですね。複数の試料を同じ装置で測って性能を比較したり、判定見本と見比べて良し悪しを判断したりするんです」
引っかかれたり、こすりつけられたり。生地にとっては悪夢のような環境ですが、これも高性能な繊維製品を生み出すため。我慢してもらいましょう。
それでは最後に、「試験機クイズ」でお別れです。この試験機は、いったいなにを確かめるものでしょうか?
わかりましたか?
正解は……。
生地の「剛軟性」を計る試験機でした。
生地を試験機の上に乗せ、徐々に前方に押し出していき、どれくらい進んだら先端がフニャッと折れて斜面に付くかで、「生地を曲げた際の硬さ」を調べます。
やわらかい生地を試験した場合
かたい生地を試験した場合
確かにやわらかい生地(上の動画)とかたい生地(下の動画)で斜面に付くまでの距離が違いますね。
池田「カンチレバー式剛軟性試験機です。簡単な試験ですが、ちゃんとJISに試験方法が規定された試験機なんですよ」
多摩テクノプラザでは繊維製品の評価のほかに、試作等の支援を行っています。複合素材開発サイトではCFRPなどの複合素材にも対応しています。繊維製品についてお悩みの方は、ぜひご相談ください。
複合素材技術グループをもっと知りたい方へ
複合素材技術グループでは機能性加工・繊維強化複合材料・材料評価計測の3つの技術分野に対応しております。
中小企業の皆さまへの技術支援として、技術相談、依頼試験、機器利用、各種セミナー、共同研究などを通してさまざまな形でお手伝いさせていただきます。どうぞお気軽にご利用ください。
※なお、クレーム解析試験は企業からの依頼・相談のみ承っております。個人の方は、消費者向けの相談窓口を設けている別機関をご利用ください。