簡単な材料でカラフルな「偏光万華鏡(へんこうまんげきょう)」をつくってみた~都産技研で工作してみた~
こんにちは、都産技研の広報担当です。
8月に入り、本格的に夏が到来しましたね。学生の皆さんは、夏休みの宿題に追われる方も多いのではないでしょうか。
今回は、夏休みの自由研究や工作にぴったりな、着色していないのに色が付いて見える、「偏光万華鏡」をご紹介します。子どもから大人まで一緒に楽しめるおすすめの工作ですよ。
都産技研の広報担当も、今年(2024年4月)出展した「ふしぎ祭(サイ)エンス」で、この偏光万華鏡をつくってみました。おかげさまで満員御礼!整理券は配布開始から3分で品切れになるほど。
本記事の最後では、偏光万華鏡の材料やつくり方もご紹介します。お家でつくり方を覚えて、夏休み明けの学校で披露すれば、クラスの人気者になれるかも!?ぜひ、最後までご覧ください。
ちなみに、皆さんは「万華鏡」って覗いてみたことはありますか?そう、筒状のものの端から覗いて、左右にくるくる回すと、光の反射角度によって、さまざまな美しい幾何学模様が楽しめる、アレです。
知らない方のために。覗きながらくるくる回すと、こんな感じです!こちらの動画をご覧ください。
この偏光万華鏡で、なぜ色や柄が見えるのか、皆さんも気になりますよね?
そこで私たち広報担当は、マテリアル技術グループの海老澤瑞枝さんに、その仕組みについて聞いてみました。
私たちが見ている”光”の正体
海老澤さん、お時間いただきありがとうございます。早速ですが、この偏光万華鏡は着色していないのに、なぜ色が付いて見えるんでしょうか?
海老澤「こちらの偏光万華鏡は、2枚の"偏光板"に光を通すことで、色が付いて見えています。」
"偏光板"というのは、たくさんのスリットが入った板で、サングラスのレンズや液晶ディスプレイなどにも使用される材料のことです。
海老澤「なぜ、色が付いて見えるのでしょう。それを理解するには、まず、光の性質について知っておくといいですね」
光の三原色で、赤・青・緑の色が合わさると白色になるのは皆さんご存知でしょうか。日常で目にする日光や照明などの光は白色ですよね。海老澤さんによると、そのような光にはさまざまな色の光が混ざっているのだそう。
そして、光は波の性質をもっていて、光の波長(波の長さ)が違うことで、人間の目にはさまざまな色に見えるんです。
海老澤「では、偏光について説明すると、そもそも、日常で目にする光は、正面から見てさまざまな方向に振動した光が混ざっているんですよ。偏光板に光を通すと、スリットの方向に振動する光だけが出てきます。この光のことを偏光(直線偏光)といいます」
カラフルな秘密はセロハンテープにあった!?
1枚目の偏光板を通りぬけた偏光が、次にセロハンテープを通っていきます。セロハンテープを使う理由って何ですか?
海老澤「セロハンテープには”複屈折”という縦と横で屈折率が違う性質があります。屈折率が違うということは縦と横で光の進む速度が違うので、今回はこの性質を利用しています」
正面から見て傾いた直線の光が入る場合、光の進む方向に対して、縦方向では光の速度が速く、横方向では光の速度が遅いと、正面から見て直線に振動していた光が、徐々に回転するようになります。
すると、正面から見たときに楕円方向の光となって、らせん状にセロハンテープの中を進んでいくのだそう。
海老澤「見える色の違いは波長の違いとお話しましたが、セロハンテープの中では、この波長によって、光の振動している方向が変わります。だから、セロハンテープを通り抜けたときの偏光が色(波長)によって違うんです。」
なるほど!セロハンテープは各色の偏光に違いを出すための役割を担っていたんですね。
そして、セロハンテープを通り抜けた偏光の振動している方向が、2枚目の偏光板のスリットの向きと一致している偏光だけが通り抜けることができます。
これらの偏光が合わさって、人間の目には色が付いて見えるようになるんですって!
また、偏光板を回転させると、偏光板のスリットの向きに合わせて通り抜ける偏光も変わるので、人間の目には色が変化して見えるというわけです。
そう言って海老澤さんが取り出したのは、セロハンテープをTIRIのロゴ(都産技研のコーポレートマーク)の形に切ってプレパラートに貼ったもの。偏光板で挟んだだけだと、水色と青色に見えますね。
こちらを「偏光イメージングシステム」という装置で解析すると……
海老澤「向きを揃えるようにしてセロハンテープを数枚重ねて、ロゴの形に切りました。肉眼で赤色を出すのは難しかったですが、偏光イメージングシステムで解析してみると、きちんとロゴの赤色が見えます」
キレイな赤色ですね!ちなみに、この装置ではどんなことができるんですか?
海老澤「この複屈折装置では、複屈折の位相差(縦と横の屈折率の差)から、透明材料の応力分布や歪みの面内分布を定量的に評価することができます。例えば、プラスチック製品を射出成型する際に樹脂をどのように流したのかわかるので、成型条件を決めるのに利用できます」
複屈折の性質を利用して、目に見えない応力を色付けして見えるようにしているんですね。えっ!魔法みたい!
偏光イメージングシステムの詳細については、こちらからご覧ください。
…………………………
偏光万華鏡の仕組みを通して、私たちが普段見ている光や色について解説していただきましたが、突き詰めて考え始めると理解するのが大変ですね笑
海老澤「そうなんです。過去にも、光の性質を利用した工作の体験会をイベントなどで行っているんですけど、きちんと説明するのはなかなか大変でした笑 でも、今回の偏光万華鏡を通して、少しでも興味を持ってもらって、偏光の原理もお伝えできたらと思います」
お家でつくれる!偏光万華鏡
ではお待ちかね、偏光万華鏡のつくり方をご紹介します。必要な材料と道具は、偏光板以外お家にあるものが多いかと思いますので、ぜひつくって遊んでみてください!
まずは、カッターやハサミを使って、紙コップ2つの底を円状に切り取りましょう。
ふちが少し残るように切っていきます。刃物を使うので、手元に気を付けてくださいね。
次に、偏光板を円状に2枚切り取りましょう。紙コップの穴よりも少し大きく、紙コップの底よりも小さく切るのがポイントです。
この工程が終わった段階で、底に穴の開いた紙コップ2つと丸い偏光板2枚ができあがりました。
続いて、丸い偏光板の1枚目にだけセロハンテープを貼って、模様をつくっていきます。セロハンテープをいろいろな方向にたくさん貼るとキレイな模様になりますよ!
セロハンテープを貼るときは、空気が入らないように注意しましょう。
模様をつくったら、偏光板からはみ出しているセロハンテープをハサミで切り取って…
穴のあいた紙コップ2つに、偏光板をそれぞれ1枚ずつセロハンテープで貼ってとめます。模様のついている偏光板は、模様の面が表にくるように貼ります。
あとは、模様のついている紙コップにもう一方の紙コップを上から重ねて、完成です!
紙コップを回すと見え方が変化するのは面白いですね。テープの貼る向きや枚数、テープの素材でも見える色や柄が変わりますので、ぜひ、いろいろなパターンを試してみてください!
マテリアル技術グループをもっと知りたい方へ
光材料・デバイス分野では、さまざまな材料の透過率・反射率測定や薄膜の光学定数・膜厚解析、分光放射率の測定を行っています。また、光計測技術や、光と物質の相互作用に関する研究も進めています。どうぞお気軽にご相談下さい。
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