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企業が排出する温室効果ガス、どうやって測るの?~潜入!都産技研~

都産技研ではどんな人がどんな研究をしているのか、実際に広報担当が潜入して確かめる「潜入!都産技研」。今回のテーマは「温室効果ガスの測り方」です。

今年の冬は記録的な暖冬だったそうで、スキー場の雪が足りなかったり、雪まつりの雪像が溶けてしまったり、といったニュースも目にしました。そういえば、去年の夏もずっと暑かった気がします。これが地球温暖化なのでしょうか……。

そう感じるのは気のせいではなく、世界的に気候変動の影響が広がっているのです。そのひとつが、大気中に放出される「温室効果ガス」による地球温暖化。

最近では、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする「ゼロエミッション」など、温室効果ガスを抑制する取り組みも盛んに行われています。

……でもちょっと待ってください。「いまこれくらい二酸化炭素が放出されてるなぁ」って、どうやって測るんでしょうか。ふわふわして、つかみどころがないような……。

そこで、都産技研のプロセス技術グループに潜入。温室効果ガスの排出量をどうやって算出するのか、その方法について聞いてきました。


従業員の通勤で排出される温室効果ガスも考える!?

訪れたのは都産技研本部の環境化学実験室。10年以上にわたり環境負荷計測に携わる、主任研究員の田熊保彦さんにお話をうかがいました。

プロセス技術グループ 主任研究員 田熊保彦さん

今日はよろしくお願いします。さっそくなんですが、温室効果ガスの量ってどう測るんでしょうか。工場の煙突にでっかい計器を付けたりするんですか……?

田熊「それはそれでできそうですが。温室効果ガスの排出量の算定や報告には、GHGプロトコルという基準があるんです。それに従って算定するほうが一般的だと思います。」

田熊さんによると、GHGプロトコルには3段階あるそう。「どの範囲までの温室効果ガスを考えるか」で段階が分かれ、最も広範囲なスコープ3だとこれくらい広いのだとか。

・原材料の輸送や、製品を配送したときの排出
・工場から出た廃棄物の輸送や、処理にかかる排出
・従業員が出勤や出張をするときの排出
・消費者が製品を使用したときや、廃棄したときの排出
(GHGプロトコル スコープ3で排出量の算定対象となるもの(一部))

えっ! 輸送に使うトラックや、通勤に使う自動車から出る温室効果ガスも報告しないといけないんですか!?

田熊「そうなんです。製造時の温室効果ガスをいくらゼロに近づけたとしても、運んだり使ったりするときに大量に排出したら、意味がないじゃないですか」

確かに……。地球にとっては「工場だか通勤だか知らないけど、とにかく温室効果ガスを出さないでよ」ってことですもんね……。

田熊「近年は、温室効果ガスに関する情報開示が企業に求められることも増えています。この先、大企業がスコープ3への対応を広げていけば、下請けの中小企業も、同様のデータ開示を求められる可能性があります」

とはいえ、中小企業がこれを全部考えるのは大変じゃないですか……?

田熊「大変です。温室効果ガス排出量を算定する手法として、製品のライフサイクル全体での環境負荷を定量的に評価する『ライフサイクルアセスメント(LCA)』というものがあります。私たちは、ライフサイクルアセスメントによる環境負荷の算定に関する中小企業の方々からの相談を受け付けています」


環境負荷を評価する「ライフサイクルアセスメント」とは?

なるほど、そのライフサイクルアセスメントという方法を使えば、温室効果ガスの量が分かるということですね。

……と、その前に、「製品のライフサイクル」ってどういうことですか? ライフのサイクル?

田熊「生まれてから死ぬまで、つまり製造され、消費され、廃棄されるまでの時間の流れが『ライフサイクル』です。LCAは、このライフサイクルのあいだに『入ってきたもの』と『出ていったもの』を調べることで、環境負荷を算定する方法です。環境負荷の一つとして、トータルで排出される温室効果ガスの量も計算できます」

製品は、無の状態からは生まれません。なんらかの資源やエネルギー(入ってきたもの)が必要ですし、製造工程では排出物(出ていったもの)も生まれます。

まずそれを測るのが大変じゃないですか……? と思ったら『電気を1 kW使うと、発電所ではこれくらいの資源を使い、これくらいの排出物が出る』といったデータが既にデータベースにまとまってるそう。

この話を表した図です。青い枠への出入りを測りましょう、という話なのですが、若干難しいので薄目でご覧ください。

電気や原材料の使用量などから、データベースを使って計算すると、どんな物質が入って出ているかが分かります。

たとえば「出ていったもの」は、二酸化炭素をはじめ、フロンガスやメタンガスなどの排出物。いかにも環境に影響がありそう。

一方で「入ってくるもの」は、鉄鉱石や石炭などの資源が中心。あまり環境には影響がなさそうですが……?

田熊「“埋蔵資源の枯渇”という意味で環境への影響があります。入ってくるもの/出ていったものは、影響を与える環境問題やその度合いがそれぞれ異なるんですね。なので、その違いを考慮したうえで最終的な指標を計算します」

「物質Aは物質Bの25倍くらい、地球温暖化に影響がある」みたいなのを全パターン考えて、計算をしなくてはいけないのだとか。大変ですね……。

「まぁ、結構複雑な計算にはなりますね……」


データの解釈で二酸化炭素の排出量が変わる?

LCAを使ううえで、特に難しいところを聞いてみると、田熊さんは「データをいかに扱うかが重要」だと話します。

田熊「ダイヤモンドの採掘を例に説明しますね。ダイヤモンドを採掘すると、一緒に大量の土砂も掘り出されます。ダイヤモンドだけでなく、掘り出された土砂も製品になります。では、採掘作業全体で排出された二酸化炭素のうち、ダイヤモンドの採掘で排出された分は、どれくらいでしょうか?」

大量の土砂に対して、ダイヤモンドはちょっとしか採れません。なので「製品の重量あたり」で二酸化炭素排出量を配分すると、ダイヤモンドはほとんど二酸化炭素を排出していないことになります。

でも、ダイヤモンドは土砂よりも何倍も高値で売れます。ここで「製品の金額あたり」で二酸化炭素量を配分すると、ダイヤモンドは大量の二酸化炭素を排出することになってしまうんです。

……ということは、データをどう扱うかで、ダイヤモンドの二酸化炭素排出量が変わってしまうということですか?

田熊「そうですね。どこを基準に考えたらいいのか、決まった正解はありません。ですから、データをどのように扱ったか、納得いく説明ができることが大切なんです」

「難しいですよね。ご相談いただければ一緒に考えますので」


データを取り続けることで「無駄」が見つかる

温室効果ガスの排出量を減らすうえで、中小企業の方々が普段から気をつけておいたほうがいいことはありますか?

田熊「効率化を図ったり、不要な工程を減らしたりして、『無駄をなくす』ことでしょうね。無駄をなくして、原材料や排出物が減れば、環境に与える影響も少なくなります。ついでに、コストも削減できますしね」

それって企業だけでなく、家庭にも言えそうですね。無駄な買い物をしない、無駄に消費しない、無駄にゴミを出さない……。

田熊「そうですね(笑)。どこに無駄があるかを把握するには、やはりデータが大事です。ご家庭だと、それは家計簿になるでしょうね」

入ってくるもの(収入)と、出ていったもの(支出)を記録するってことですね……!

家計を見直すなら家計簿をつける、ダイエットをするなら食事記録をつける。記録することで、意識してなかった「無駄」が見つかるもの。

データを忘れず取り続けるのは簡単なことではないですが、地球と家計と健康を守るために、我々も頑張ってみようと思います!

……ところで田熊さんって、1日中ここで温室効果ガスの排出量を計算しているんですか?

田熊「いえいえ(笑)。この環境化学実験室は、水に含まれる成分の分析も行っています」

全有機体炭素・全窒素測定装置。水試料に含まれる全有機体炭素や全窒素を測定する。1リットルの水に0.1 mg含まれていても検出可能。
ICP※1発光分光分析装置。水溶液に含まれる元素の定性・定量分析※2を行う。排水中の規制物質(銅や鉄など)の検出に用いる。

※1 ICP=Inductively Coupled Plasma: 誘導結合プラズマの略称。
※2 定性・定量分析:定性分析とは、試料中の化学成分を調べる分析方法。定量分析とは、試料中の成分量を調べる分析方法。

田熊「工場から出る排水にはさまざまな規制があり、企業は排水処理を適切に行う責任があります。私たちは排水処理技術のほか、工場の工程改善や環境対策に関する技術の研究もしています」

排水規制は徐々に厳しくなっています。対応に悩む企業から依頼を受け、実験室の設備で試験を行ったり、時には実際に工場に赴いてアドバイスしたりすることもあるのだとか。

田熊「排水や温室効果ガスなど、環境に関する困りごとがありましたら、ぜひご相談いただけますと幸いです」

取材のご協力、ありがとうございました!


プロセス技術グループをもっと知りたい方へ

工場や事業場の環境負荷削減に関する支援や研究開発を行っています。工程管理や環境対策を見直したい、環境負荷を把握するための測定・評価を行いたいなどの悩みにお応えします。お気軽にご相談ください。

また、今回取り上げた『ライフサイクルアセスメント(LCA)』については、都産技研の広報メディア『TIRI NEWS』でもご紹介しています。

お問い合わせ:プロセス技術グループ
プロセス技術グループ - 都産技研ホームページ (iri-tokyo.jp)


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