プロダクトデザイナーに会いに行ったら、パッ!サッ!グッ!のものづくり職人だった~都産技研でものづくりを体験してみた~
こんにちは、都産技研の広報担当です。金属をカットできる「ファイバーレーザー加工機」で研究員がなにやら加工しているみたいですね。
これがなにかは後ほど発表するとして、今日のテーマは「プロダクトデザイン」です。
都産技研には、あらゆる材料と機器を組み合わせてさまざまな製品をデザインする「ものづくり職人」がいます。必要な物があればすぐに「パッ」とひらめき「サッ」と手を動かし「グッ」とくるものをつくってしまうのです……! 今回はその仕事場におじゃまして、実際にものづくりを体験してみました。
便利なアレもなんでもつくる、買ってくるよりつくったほうが早い !?
お話を伺ったのは、地域技術支援部 城東支所の上野明也さんと、同僚のYさん。
上野さん、普段から身の回りのものまで自分でデザインしてつくってしまうと聞いたんですが、どんなものをつくっちゃうんですか?
上野「たとえばこのテープカッターですね」
このタイプのテープカッター。昔はよくテープに付属されてましたよね。サイズ別につくってあって、至れり尽くせり。
同僚Y「最近このタイプのカッターを見かけなくなったんですよ。ちょっと使いたいとき便利だったんで、アレが欲しいな……って言ってたら、上野さんがパッ!とつくってくれて」
軸を支える部分はアルミで、ペン先が触れる部分は樹脂できています。側面にあしらった抜型ロゴには「U-DESIGN」の文字が。U…、”U・E・NO”でしょうか。ずいぶんとおしゃれなペン立てですね ……!
同僚Y「これ、もともと歯ブラシ立てだったんです。お昼に歯を磨いたあと、歯ブラシをどこかに立てたいな……って言ったら、上野さんがサッ!とつくってくれて」
ちょっとちょっと上野さん、すぐにつくりすぎじゃないですか!?
上野「そうですね(笑)。ファイバーレーザー加工機と切削モデリングマシン入門の講習会で行う実習の課題にちょうどいいなと。普通、こうした金属製品は金型にプレスしてつくるものですが、ファイバーレーザー加工機は金型をつくる必要がないので、1個単位で手軽につくれるんです。設計も含めて、1時間かかっていないと思います」
同僚Y「隣の席で作業していて、上野さんがシーンとしてるな……と思ったら、図面を描いて、気づいたらデザインまで終わってるんですよ。なんでもつくれちゃうし、買ってくるより早いかもしれません(笑)」
同僚Y「これは最初、私がもっと適当につくろうとしたんです。板にテープで紙を貼ればいいかって。そしたら上野さんが『それじゃダメだよ』と」
上野「ちゃんとつくりたいじゃないですか(笑)」
すぐにつくれる=適当につくる、ではなく、上野さんには設計の美学があるのです。もともと上野さんは、前職で日用品雑貨のデザイン開発をされていたとのこと。
「このファイルケースも私が最初に企画してデザインしました。めちゃくちゃ売れましたね」 これ、筆者の自宅にもありますよ……!
上野「これまでの製品開発では、ちょっとした不便や不満も、デザインでどう解決するかをずっと考えてきたんです。なので、普段の生活でも『どうやったらつくれるかな』と考えて、実際につくってみるのが癖になっていますね」
都産技研が持つ設備の数は”三種の神器”以上!
実は都産技研には、ものづくりを一貫して行える設備が揃っています。
近年、ものづくりの世界では、デジタルデータをもとに創造物を制作する技術、つまり「デジタルファブリケーション」という言葉が盛んに使われています。これは、平たく言うと「デジタル工作機器を使って、つくりたいモノを自分でつくっちゃおう」というもの。
3Dプリンターやレーザーカッター、CNCフライス(旋盤)などが「デジタルファブリケーションの三種の神器」と呼ばれますが、そもそも都産技研には三種どころか、設計・試作から造形まで一通り行える設備が揃っているのでした。上野さんたちのものづくりに欠かせない仕事道具としても活躍する装置も多数あります。
総務省が推奨しているデジタルファブリケーション機器の多くにチェックがつきます。図示してみるとこんなにも…!
また、研究員が実際に機器を動かして使い方を教えるセミナーや講習会も開催しているので、初めての方も安心して使うことができますよ。
都産技研の設備の魅力は、都産技研公式noteでも追っていろいろとご紹介しますので、ぜひお楽しみに。
製品を設計するのも仕組みを考えるのも全部「デザイン」
ところで上野さんは、同僚Yさんたちとともに「地域技術支援部 城東支所」という部署で働いています。普段はどういったお仕事をされているんですか?
上野「城東地域は、生活関連製品に関する製造業が多く、伝統工芸も盛んです。私の担当はプロダクトデザインで、皆さんが首にかけている“それ”も私が手がけました」
※城東支所は現在改修工事のため休館しており、2025年7月以降に段階的な再開を予定しています。プロダクトデザインに関する支援は本部で実施しています。
上野「入館証をつなぐ留め具の部分ですね。以前、お客さまからのご相談で、『絶対に外れないネックストラップ』をつくったことがありますが、さらに改良を重ねて、ストラップがねじれず、『カードケースが常に前を向くネックストラップ』をつくりました。3DCADで起こした設計データを使って3Dプリンターで試作しました。ストラップを着物の襟元のように重ねることで、入館証が常に前を向くように設計しています」
上野さんが研究開発で取り組んだ「ものづくり」も見せていただきました。
金属板を積み重ねた金型(右奥)によってつくられた「ぐい呑み」(手前)。一般的な金型と違い、金属板を並び替えることで、同一の金型で異なるデザインのぐい呑みを成形できます。金属板はファイバーレーザー加工機で製作しています。レーザー加工機では通常金属の板は切断できませんが、都産技研のファイバーレーザー加工機であればステンレスで3 mm程度の厚みまで切断可能だそうです。
「トポロジー最適化」を活用したデザイン手法によってつくられた椅子。限られた条件下で最適な構造を導くことができ、短時間でコンセプトデザインが可能に。こちらの椅子はで切削モデリングマシンで製作しています。
一口に「デザイン」といっても、その幅はとても広いもの。絵や模様を描くのも、製品を設計するのも、企画から売れる仕組みまで考えるのも、全部「デザイン」です。それゆえに、上野さんが関わるお仕事も、幅広く多岐に渡っているんですね。
上野「以前、都産技研所内で、マテリアル技術グループが親子向けイベントで配布するノベルティグッズをデザインしたことがありました。樹脂や射出成型の魅力を伝えるにはどうしたらいいかと考えて……」
上野「子どもたちが楽しく遊ぶには、手に持って遊べたり、実用的だったりするもののほうがいいのでは、とデザインを提案しました。次の年に色違いを出せば、さらにパーツが欲しくなって、またイベントに来てくれるかなと。実用と集客を兼ねたデザインです。ただ単純にデザインして終わり……ではなく、最終的に製品が誰に、どう使われるかまで想像してデザインするのがものづくりのプロフェッショナルの仕事かな、と思っています」
なるほど。では、上野さんが考える「良いデザイン」って、なんですか?
上野「そうですね……。抽象的ですけど、自分でつくっていて“グッとくる”デザインですね(笑)。グッとこないものは自分でも許せないですし、他の人に使わせるわけにはいかないなと」
デザインがその製品にもたらす効果を考えつつ、自分が“グッとくる”ものを追求する……。これぞ「ものづくり職人」 のこだわりですね 。
「まずはつくってみる」そこからすべてが始まる
ではいよいよ、上野さんがものづくりをする現場に行ってみましょう! 4階の部屋に移動です。
さぁつくるぞ~! と気合だけはあるものの、こちらは完全にものづくり素人。今回は上野さんにもろもろ用意していただきました。たとえばこちら、これからつくるモノの設計図です。
火花がバチバチと飛ぶ様子を見守り、ものの1分ほどで切断が完了。切ったばかりのアルミを触らせてもらうと、まだ縁がギザギザしていますね。
これを滑らかにしないといけません。上野さんは縁のギザギザを取ったあと、サンディングスポンジ(紙やすりのスポンジ版。ザラザラとした手触りです)で、表面をゴシゴシ削っていきます。
もう表面がずいぶんピカピカなのに、上野さんはまだサンディングスポンジを変えながらこすり続けています。あれ? まだやるんですか?
上野「これはヘアライン仕上げといって、ピカピカの表面にあえて傷をつけて、アルミをより美しくエレガントに見せているんです。家具やエスカレーター、サッシなどにも使われる技術ですね。スポンジの目の細かさや、研磨の回転数やスピードによっても、仕上がりが変わってくるんですよ」
表面の仕上げには、指先の感覚だけで数ミリ単位の細かさにまで調整できるそう。まさにものづくり職人の成せる技ですね……。
ここまでわずか20分。机の引き出しに設置して、スマホの充電ケーブルなどを引っかける「ケーブルフック」ができました! こういうのあると便利ですよね~。
……と思ったら「まだ最後の仕上げがありますよ」と上野さん。
上野「このままだと引き出しに引っかからないですよね。最後は設置したい引き出しに合わせて、自分の力で曲げて完成させるんです」
上野「引き出しによって、板の厚さはさまざまですよね。なので、最後は現場で調整してもらうために、手で曲げやすいアルミでつくりました。堅いステンレスでは、こうはいきませんからね」
実際に使われる場面を想定しながら素材の特徴を活かすのも「デザインの仕事」のひとつ。
上野さんのものづくりを見ていると、中小企業の支援にもそのノウハウが生きているんだとわかります。「まずはつくってみるって、やっぱり大事なんです」と、上野さんは話します。
上野「つくったものを世に出して、反応を見れば、改善するポイントがわかります。さらに改善して、また世に出してと、ビジネスを積み重ねていくことで、どんどん企業も成長していくわけです。予算などの都合で製造が難しい場合は、『こちらの簡単なやり方でつくってみませんか』という提案もできるので、まずはご相談いただければと思います」
城東支所をもっと知りたい方へ
プロダクトデザインの分野では、企業の技術シーズやユーザーニーズをもとにデザイン開発から試作までを担当します。ユニバーサルデザインやユーザーインターフェースの考え方を基本とし、工業デザインやアパレルデザインに関する製品開発、グラフィックソフトウェアやCADなどのデジタルデータを活用した製品開発を支援しています。
また、今回ご紹介したペンスタンドを各自で製作することで、ファイバーレーザー加工機および切削モデリングマシンの操作に必要なCAMソフトを用いたNCデータの作成および実際の加工を体験する講習会を定期的に開催しています。
募集の詳細については、都産技研ウェブサイトをご覧ください。
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プロダクトデザインご利用ガイド
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