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機械と人間が協力して異臭の正体を突き止める! におい分析システム ~私の“推し“マシーン~

こんにちは、都産技研の広報担当です。今日は墨田支所の「生活科学試験室」にやってきました。

なんですかこのSFっぽさのある装置は

大きな黒いボディから、まるで触手のように太いホースが伸びています。そして、その先端に鼻を当てていますよね……。

この装置の名は「におい分析システム」。生活雑貨品などの“におい“を分析するための装置です。でも、機械で分析するはずなのに、どうして人間も一緒ににおいを嗅いでいるのでしょう……?

そこで今回は、におい分析のプロであり、臭気判定士の資格を持つ、墨田支所 感覚快適性を担当する 副主任研究員の亀崎悠さんに「におい分析システム」について教えてもらいました。

墨田支所 副主任研究員 亀崎悠さん

人間の鼻は400パターン以上のにおいを嗅げる

におい分析では、「製品からいつもと違うにおいがするので調べてほしい」といった企業からの依頼を受け、その製品にどんなにおいの成分が含まれているかを明らかにするそう。

でも、私たちが普段においを嗅ぐとき、「これは○○の成分と△△の成分が……」なんて気にしないですよね。

亀崎「そうですね。人間はさまざまな成分をまとめて鼻から吸い、鼻の中にある嗅覚受容体というセンサーがそのにおい成分を検出しています。ヒトの嗅覚受容体は約400種類あり、それぞれ違うにおい成分を嗅ぐんですよ」

ということは、人間の鼻は400パターンのにおいを嗅ぎわけているってことですか!?

亀崎「そういうことですね。とはいえ、これはあくまでセンサーの数。反応するセンサーの組み合わせがトータルで何のにおいなのか、いい香りなのか悪臭なのかは、脳が記憶や経験と照らし合わせて識別します。人間は数千種類のにおいを嗅ぎ分けるとも言われます」

なるほど。「故郷の海辺のにおい」とか「学生時代の部室のにおい」とかを判断するのは脳の仕事。嗅覚受容体だけではわからないわけですね。


におい分析システムで、においの成分を「分離」

……で、この装置はなにをどうするものなんですか?

改めて、におい分析システムの全景をご覧ください。

亀崎「この装置は、対象物に含まれるにおいの成分を、すべて分離するものです。ひとつひとつの成分を検出し、それぞれが何かを特定することができます」

人間の鼻が複数の成分をまとめて嗅ぐ「ハーモニー」なら、この装置はそのハーモニーを「単音」に分割する、という感じなんですね。

分析をするには、まずは測定するにおいをセット。サンプルが液体ならば、こうした瓶に入れたり……。
「タオルについたにおい」であれば、タオルと無臭のガスを袋に入れたあと、ガスをポンプで吸い出し、パイプの途中に入れた「補臭材」に、においを吸着させます。

装置にセットした“におい”は、温められてガスになり、長さ約30 m・太さ0.25 mmの細い管の中に注入されます。

黒いボディの中はこう。奥に見えるグルグル巻かれた銅線のようなものが、ガスが通る細長い管。

この「ガスクロマトグラフィー」という分析手法により、分離した成分がひとつひとつ順番に装置から出てくるのだそう。その先にいるのが、成分の検出器と……。

亀崎さんの鼻です。なぜ!?


30分間全集中! 一瞬のにおいを嗅ぎ分ける

あのぉ、成分がなんなのかは検出器でわかると思うんですけど、なんでわざわざ亀崎さんがにおいを嗅いでいるんですか……?

亀崎「それはですね……。ちょっとこのグラフを見てもらえますか。『薬品臭がする』と依頼があった製品を分析したグラフで、赤が通常品、黒が異臭のする製品です」

赤いグラフに比べて、黒いグラフがピョンと伸びていますね。

ははぁなるほど。この黒いグラフがピョン!と高く伸びたところが、異臭の原因となる成分なわけですね。こんなに含まれていたら臭いわけです。

亀崎「そう思いますよね。でも薬品臭がしたのは、グラフのこの辺なんです」

全然違うところじゃないですか。

亀崎「たくさん含まれているのに、それほどにおいがしない成分もあれば、少ししか含まれていないのに刺激臭がする成分もあります。これは人間が嗅がないと判断できないんですよ」

確かに、機械にわかるのは「どんな成分か」まで。それが「どんなにおいか」は、人間じゃないとわからない……!

亀崎さんによると、人の鼻のほうが装置よりにおいの感度が上だそう。「装置では検出できないが人間には嗅げる」ということもあるのだとか。

亀崎「におい分析システムでは、約30分かけてにおいの成分を分離します。分離されたものから順番に、装置からにおい成分が次々と出てくるので、それらを人が嗅ぎ分け、リアルタイムでメモしていくんですよ」

つまり亀崎さんはこうやって、においに30分間全集中しているのです。大変だ……!

においを「ふわっ」と感じるのは、ほんの数秒。ぼんやりしていると次のにおいが出てきてしまいます。においの強さは5段階で評価するため、一瞬たりとも気が抜けません。

集中が必要なため、「嗅いでいるあいだは誰かが話しかけても無視します(笑)」とのこと。それは話しかけるほうが悪いです。

メモをするタブレットには、あらかじめ「カビ臭」「フローラル」「酸っぱい」などのボタンがありますが
該当するものがなければ手書き。消毒臭がした時間帯に「やくひん」の文字が。

機械が成分をより分け、人間がどんな臭いかを判断する。機械と人間が一体にならないとできないお仕事であることが、やっとわかりました。

では亀崎さんは、普段の仕事でどんなにおいを嗅いでいるのでしょうか……? 後編では、代表的な「におい」を用意してもらい、実際に嗅いでみます……!

「うわぁ……!」というにおいも登場します!お楽しみに!


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墨田支所では、「人間にとっての使いやすさ」、「快適・安全・健康」に配慮した製品開発、高付加価値なものづくりに取り組んでいます。感覚を数値化し、ヒトをはかり、モノをはかり、人間工学や生理計測等に基づいたデータを取得して、幅広い生活関連製品の研究開発・事業化に役立てています。

今回ご紹介したにおい分析システムの詳細はこちらをご覧ください。

におい分析試験の概要についても以下のページで紹介しています。

お問い合わせ:墨田支所
墨田支所|東京都立産業技術研究センター