「におい分析」で“よくあるにおい7選”を嗅いでみた!~都産技研で体験してみた~
こんにちは、都産技研の広報担当です。今、何かのにおいを嗅いでいます……。
都産技研の墨田支所では、「におい」の評価試験を行っています。そのひとつが、におい分析システムを使った異臭分析。
前回の「私の“推しマシーン”」では、臭気判定士の資格を持つ亀崎悠さんに、におい分析の流れを伺いました。においの成分を装置で検出し、それを実際に人間が嗅いで確認するのだと。
では、亀崎さんは普段の仕事のなかで、どんなにおいを嗅いでいるのでしょう?
そこで今回は特別に、亀崎さんに「におい分析でよくあるにおい7選」を用意してもらいました。実際に嗅いでみて、そのフレーバーをお伝えします……!
これは何のにおい?「におい当てクイズ」に挑戦!
私たち広報担当は、いったい何のにおいを用意されたのか知りません。亀崎さんからは「勢いよく嗅がず、鼻から10センチぐらい離して嗅いでください」と言われています。ドキドキしますね……。
まずは1番の小瓶から。
なんか嗅いだことがあるにおい。なんだろうこれ。え、いきなり難しくないですか……?
亀崎「これをどんなにおいか表現するのが、我々の仕事なんです(笑)」
なんかあれですね……。青っぽいにおいというか……。
亀崎「ほぼ正解です。これはヘキサナールという成分で、刈ったばかりの草のにおいがします。大豆たんぱくなどの青臭いにおいの原因ですね。香水にも入っていることがあります」
草のにおい! さっきまでぼんやりしていた輪郭が、「草のにおい」と言われた途端にハッキリしました。言われてみれば。
続く2番も「なんかくさい」という感じだったのですが、亀崎さんから「銀杏《ぎんなん》です」と教えられて、「銀杏!」と大きな声が出る始末。言われるとすぐ分かるのに、記憶となかなか結びつきません。
しかし3番を嗅いでみると……。
フタを開けた途端にすごいにおいが……。発酵しているような、酸っぱいにおいがします。
亀崎「ですよね(笑)。ヨーグルトの上澄みとか、若い人の汗とかに含まれている成分です」
食品にも体臭にもこの成分が!? 居場所が違いすぎませんか。
亀崎「そうなんです。食品にも体臭にもいるし、美味しそうなにおいにも、異臭にもなる。実はいろいろなところに、同じにおいの成分がいるんですよ」
そのほかに、亀崎さんは「人が履いた靴下」「塗装工場から排出されるガスの焦げ臭」「日本酒の劣化臭(老香:ひねか)」それぞれに、同じ成分を見つけたことがあるのだそう。それは世界の秘密を発見したような気持ちになりますね。
ちなみに4番のにおいは、「加齢臭」に含まれている成分でした。「カメムシの出すにおい」に近いそうです。そこも同じなんですね。アラフィフとしてはちょっとショックです。
足の裏・魚臭い・カビ臭いの3連発
さて5番のにおい。亀崎さんから「これは本当によく出るんですよ」と小瓶を渡された瞬間、こうなりました。
あまりの臭さに思わず叫んでしまいました。これ、足の裏のにおいですよね……?
亀崎「そうです。イソ吉草酸という酸で、低級脂肪酸の一種ですね。食品では納豆にわずかに含まれています」
念のため確認ですが、これは亀崎さんの足の裏から採取したわけではない?
亀崎「違います(笑)。ちゃんと試薬として用意しているものです。草を刈ったり銀杏を拾ったりもしてません(笑)」
そろそろラストスパート。6番のにおい。
亀崎「トリメチルアミンという成分で、魚の生臭さの原因になります。エビの粉末や鰹節にも入っていますね」
魚! 筆者の地元は港町で、魚の加工工場からこんな臭いがしていました。子どものころは、鼻をつまんで工場の前を通り過ぎたものです。においから懐かしい記憶が一気に蘇ってきました。
亀崎「トリブロモアニソールといって、消毒臭とも言われています。倉庫に保管していた食品の段ボールにこのにおいが移ってしまって、『食品がカビ臭い』というクレームにつながることもありますね」
におい分析の前に、コーヒーを絶対に飲まない理由
すべての「におい当てクイズ」が終わりました。お騒がせしてすみません。それにしてもこれ全部、亀崎さんは仕事で嗅いでいるんですよね……。
亀崎「いろいろなにおいを嗅ぐので、分析後はかなり疲れます。今日、午前中に来ていただいたのも、鼻が疲れる前に嗅いでほしかったからなんです」
におい分析をするときは、前日から食べものに気をつけているそう。特に、コーヒーは飲まないようにしているのだとか。
亀崎「コーヒーは口の中に香りが残りやすく、喉の奥を通って鼻に戻ってくる『戻り香』になりやすいんです」
なるほど、鼻の外側と内側から、においがぶつかってしまうんですね。でも、コーヒーなんてうっかり飲んじゃいそうですが。
亀崎「やっちまった、というときもあります(笑)。そうなると水を飲んでもダメなので、時間を置くしかないんです。ニンニクなら牛乳で落ち着くんですが」
鼻のコンディションを保つのも大変ですね……。
亀崎「新型コロナウイルスに感染したときは、嗅覚がちょっと変になってしまって、しばらくにおい分析から離れていました。食べものの味もいつもと違うんです。味覚・嗅覚・触覚、それぞれのバランスで味は成り立っているんだと実感しました」
食用コオロギには、どんな「におい成分」が含まれている?
亀崎さんのお仕事は分析だけでなく、最近は食品の香りに関する研究も行っています。
食材のにおいを特徴づける成分を特定し、化学的に再現する取り組みなのだとか。美味しく感じるにおいがわかれば、食材のにおいを改善することもできるわけです。
そこで亀崎さんが着目したのが、食用コオロギの粉末でした。
食用コオロギの粉末から、亀崎さんが特定したにおい成分は13個。バターやナッツ、ガーリックといったにおいの成分や、先ほど嗅いだトリメチルアミン(魚)、イソ吉草酸(足の裏)も含まれていたそう。
亀崎「においの成分には、唾液に溶けやすいものと溶けにくいものがあるので、口に含むとさらににおいが変化します。今後は、食品技術センター※とも連携して、においと食品の加工条件の関係を探っていきたいですね」
最後に、亀崎さんににおいのお仕事のやりがいを聞きました。
亀崎「におい分析を依頼される方には、お客さまから『なんか変なにおいがする』とクレームを受けた方もいます。『なんか変』と言われても、何が原因かわからない。その不安に対して、『この成分が入ってるからです』と明確な答えを出して安心していただけるのは、この仕事ならではのやりがいだと感じます」
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墨田支所では、「人間にとっての使いやすさ」、「快適・安全・健康」に配慮した製品開発、高付加価値なものづくりに取り組んでいます。感覚を数値化し、ヒトをはかり、モノをはかり、人間工学や生理計測等に基づいたデータを取得して、幅広い生活関連製品の研究開発・事業化に役立てています。
前編でご紹介したにおい分析システムの詳細はこちらをご覧ください。
におい分析試験の概要についても以下のページで紹介しています。